案内人 −3−
「ねぇ、京介は私といて退屈だとかつまんないとか思わないの?」
「まだそんな事言ってんのか? 全然思わないよ」
「どうして?」
「小雪といる時が“イチバン”だから」
京介はまったく迷う事無く言った。
だけど、考えてみると私もそうかもしれない。
京介と一緒にいる時が一番楽しい。
ただそれは幼馴染みだからとか、腐れ縁だからじゃないと思う。
私は昔、京介の事が好きだった。
自分の気持ちに気付いたのは高校二年の夏。
でも、その時にはもう京介は他の女の子と付き合い始めていた。
だから私は自分の気持ちを押し殺して心の中に封じ込めた。
その事を今、思い出した。
そして、思い出して気が付いた。
結局、今まで付き合ってきた男性につまらないと思わせてしまっていたのは
その所為なんじゃないかと。
自分でも気が付かないうちに京介と比べ、心のどこかで京介を求めていたから
本気になれずにいたんじゃないのか。
「小雪?」
京介の声にハッとして顔をあげるとゆっくりと抱き寄せられた。
「っ」
すごく驚いた。
けれど、京介の温もりに包まれた瞬間、すごく安心感を覚えた。
「そういえば、京介が私をどこかに案内してくれたのって初めてだね」
抱きしめられたまま私がそう言うと京介は、
「あはは、そうだな。何かって言うといつも小雪が案内役だったし。
高校受験の時も受験校まで一緒に行ったしな」
と笑った。
「大学受験の時もね」
「うん。大学に入ってからも友達とどこかに車で遊びに行く時、小雪がいつも助手席で
ナビしてくれたんだよな。考えてみれば初めて会った時からずっと案内役だな」
「京介はいつも私を元気付けてくれたよね。部活の試合で負けた時とか、
受験勉強でイライラしてた時とか、今回みたいに彼氏に振られた時とか。
……いっつも元気をくれてた」
「そうだっけ?」
京介は照れくさいのか、ちょっと恍けていた。
「そうだよ」
そして私はこれからもずっとこうして京介から元気を貰うんだと思う。
「……ねぇ、私が落ち込んだ時、また、ここへ連れて来てくれる?」
「うん、もちろん」
京介は優しい笑みを返してくれた。
「でも、京介が落ち込んだ時は? こっそりまた一人で来ちゃう?」
「一緒に来てくれるの?」
「うん、邪魔じゃなかったら」
「邪魔なワケないじゃん。小雪とこの景色を見れるんなら二倍元気になれる」
なんだかちょっと恋人同士みたいな会話。
そう思ってしまうのは抱き合っているからだろうか?
翌朝――、
「あの……っ、喜多嶋さん」
スタッフルームで後輩の女の子に声を掛けられた。
「ちょっと、お願いが……」
「?」
「あのー、時々、裏口で喜多嶋さんの事を待ってるスーツ姿の男性の事なんですけど……」
「それってー、私と同い年くらいの人?」
「はい」
京介の事だ。
「あの男性って……どなたなんですか?」
こんな風に京介の事を訊ねられるのは三度目だ。
一度目は高校一年生の時にクラスメイトから。
二度目は大学二年の時に先輩から訊かれ、私は決まってこう答えていた。
「私の幼馴染みよ」
「じゃあ、喜多嶋さんとお付き合いしてる方じゃないんですね?」
彼女は私がつい最近まで社内に恋人がいた事は知らない。
そして別れた事も。
「……あのぉー……その方にお付き合いしてる女性とかは……」
「今はいないと思うよ」
「じゃ、じゃあっ、あのっ、もしよかったら紹介して貰えませんかっ?」
「……うん、いいよ」
「ありがとうございますっ」
彼女はとても嬉しそうにぺこりとおじきした。
あの時もそうだった。
クラスメイトに京介を紹介した時も、先輩に京介を紹介した時も――。