ブルースター −22−

 

 

「・・・そんな・・・どうして・・・。」

俺は愕然とした・・・。

ナルのアパートへ着いて合鍵でドアを開けてみると、

部屋はすでに蛻の殻だった・・・。

 

ガラン・・・とした部屋・・・。

 

この部屋だけまるで時間が止まったみたいに

静まり返っていた・・・。

 

 

そして自分の部屋に戻った俺は、会社から帰った時に

ポストから取り出した郵便物の束の中に、

他とは違う手紙があるのに気がついた。

 

“広瀬優二様”と書かれた封筒の文字は間違いなくナルの字だ。

消印は、俺が大阪に行った翌日の日付・・・。

俺は恐る恐る封筒を開けた。

その中には俺の部屋の鍵とたった一行だけの手紙。

 

“私の事は忘れてください。ごめんなさい。”

 

その言葉が何を意味するのか・・・

理解するにはそう時間はかからなかった。

 

ナルは俺の事が嫌いになったんだろうか・・・?

 

だから、俺が出張に行っている間に黙っていなくなったのか・・・?

 

・・・いや・・・違う・・・。

 

ナルはそんな事が平気でできるような子じゃない。

 

だけど・・・じゃあ、なぜ・・・?

 

何か原因があるにしてもさっぱりわからない・・・。

 

俺が大阪にいる間・・・何があったんだ・・・?

 

 

それから数日経ってもナルの消息はまったく掴めなかった。

矢野にはもちろんの事、ナルの実家にも電話をしてみた。

だけど、ナルは実家にすら帰っていないし、連絡さえしていなかった。

 

実家に帰っていないとすれば・・・一体、どこに行ったんだ?

友達のところにでも行っているんだろうか?

 

それとも・・・

 

まさか・・・

日高のところ・・・?

 

もし・・・日高のところなら・・・

やっぱりナルはアイツの事をまだ忘れていなかったって事なのか・・・?

 

もやもやした気持ちのままナルの事を考えながら仕事をしている所為か、

ちっとも仕事が捗っていない。

それでここ数日はずっと残業をしている。

 

・・・RRRRR、RRRRR・・・

 

そして今日も定時をかなり過ぎるまで残業していると

矢野から携帯に電話がかかってきた。

会社にかけて来ていないという事は、

仕事の話じゃなく、プライベートな話・・・

 

・・・ナルの事かっ!?

 

「もしもしっ。」

 

『もしもし、矢野だけど。今いいか?』

 

「あぁ。」

 

『愛美ちゃんの事なんだけど・・・。』

 

「何かわかったのか?」

 

『昨日、北海道支店に用があって電話した時にちょうど日高が出て、

 ちょっと話したんだ。

 ・・・で、俺ももしかしてと思って愛美ちゃんの事

 聞いてみたんだけど・・・。』

 

「・・・。」

俺はごくりと息を呑んだ。

 

『・・・結論から言うと日高のところには行ってなかった。』

 

「そうか・・・。」

全身の力が一気に抜けていくのがわかった。

 

『実は日高も愛美ちゃんにずっと謝りたくて電話してたらしんだけどな。

 けど、まったく電話にも出ないし、メールも返って来ないから

 どうしたもんかと考えてたらしい。』

 

「謝りたかったって・・・?」

 

『まぁ、あいつとしては自分の所為でクビになったようなもんだし、

 責任感じてるんだろ。

 それから、日高にも愛美ちゃんが行きそうなところ聞いてみたんだけど、

 さっぱりわからんらしい。』

 

「そっか・・・。」

 

『そんなワケだから、愛美ちゃんが日高のところへ行ってないって事だけ

 お前に伝えておこうと思ってな。

 ・・・また、何かわかったら連絡するから。』

 

「・・・あぁ、・・・サンキュー。」

矢野との電話を終えた後、俺はため息をついた。

 

ナルが今さらアイツのとこに戻るはずがないと思いながら、

一瞬でも疑った自分に腹が立った。

そして、日高のところへは行っていないとわかった時、

ホッとしたと同時にまたナルの消息がさっぱり見当がつかなくなった。

 

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