ブルースター −24−

 

 

「ごめんなさい・・・。」

しばらくの沈黙の後、澄子ちゃんはその言葉の後に

俺が大阪に行っている間にナルに会ったこと、

ナルに俺と別れるように言った事、

ナルに何を言ったのかをすべて話した。

 

そして、俺がナルから離れるのを待っていた事。

だから、わざわざ俺が出張に行っている日にナルに近づいた事。

 

・・・なんてことだ・・・。

 

「なんで・・・そんな事・・・」

俺は手で顔を覆いながら項垂れた。

 

「・・・好きなんです・・・」

 

「・・・。」

澄子ちゃんの口から出た言葉の意味はなんとなくわかっていた。

 

「私・・・広瀬さんの事が好きです。」

澄子ちゃんは俺の顔を真っ直ぐに見つめ、ハッキリと言った。

 

だからって・・・

 

俺は目を合わさないでいた。

 

「千秋さんなんかに広瀬さんを取られたくなかった・・・。」

 

“なんかに”・・・って・・・

 

「千秋さんと再会するまでは、広瀬さん私のお願いも全部

 なんでも聞いてくれたのに・・・

 でも、千秋さんが広瀬さんの前に現れてから急に・・・

 広瀬さん、私に冷たくなった・・・。」

 

それは・・・違う・・・。

 

「千秋さんがいなくなれば・・・」

「それは違うよっ!」

俺の少し大きな声に澄子ちゃんはビクッとした。

 

「それは違うよ・・・俺は・・・ずっとナルの事忘れていなかった。

 大学の頃からずっとナルが好きだった・・・。」

 

「・・・。」

 

 

・・・RRRRR、RRRRR・・・

 

重苦しい沈黙の中、俺の携帯の着信音が鳴り響いた。

着信表示を見ると矢野からだった。

 

もしかしたら・・・ナルの事かもしれない・・・。

 

「出ないで・・・。」

着信音にかき消されそうなほど小さな声で澄子ちゃんが言った。

 

だけど・・・

 

もし、ナルの事だったら一刻でも早く知りたい・・・。

 

「もしもし・・・。」

携帯に出た俺の顔を澄子ちゃんは悲しそうな顔で見つめていた。

 

『もしもし、俺だ。』

矢野は少し急いでいる様子の声で話し始めた。

 

『愛美ちゃんの居場所がわかったぞ。』

「っ!?・・・ホントか?」

『あぁ・・・さっき日高から電話があった。』

「日高から・・・?」

その言葉に俺は思わず息を呑んだ。

 

日高が・・・なぜ・・・?

 

『今日の昼間に日高が出張先で見かけたらしい。』

「・・・どこなんだ?」

『沖縄だ。』

「沖縄?」

『あぁ、少し遠目からだったけどおそらくまちがいないだろうって言ってた。

 日高も声を掛けようとしたみたいなんだが、仕事中で無理だったらしい。

 どの辺りで見かけたか詳しい事聞いたから・・・書くものあるか?』

「あ、あぁ・・・。」

俺はデスクのメモ用紙に矢野から聞いた情報を書き写した。

 

 

電話を切った後、俺は俯いたままの澄子ちゃんに言った。

「澄子ちゃんの頼みを聞いてたのは先生に言われてたからだよ。」

 

「パパが・・・?」

 

「うん・・・だから、例えナルと再会していなくても・・・

 俺は澄子ちゃんの気持ちに応える事は出来なかった。」

 

「・・・。」

 

「ごめん・・・。」

澄子ちゃんの気持ちは前々から気付いていた。

あれだけ積極的にアプローチされればいくら鈍感な俺だってわかる。

 

「俺・・・ナルじゃないと駄目なんだ。」

それだけ言って、澄子ちゃんの横を通り過ぎ、

俺は事務所を後にした。

 

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