ブルースター −25−

 

 

―――翌日。

俺は朝一で沖縄行きの飛行機に乗った。

2時間半の道のりがやけに長く感じる。

 

那覇空港に着き、昨日、日高がナルを見かけたという

場所までタクシーで向かった。

 

・・・ナル・・・

 

・・・どうか・・・間違いじゃありませんように・・・!

 

俺は祈るような思いでいっぱいだった。

 

 

日高がナルを見かけたという場所は那覇空港からは

距離的にそう遠くはない場所だった。

 

だけど・・・俺はその場所に降り立った瞬間、

絶対にナルがいると確信した。

 

なぜなら・・・

 

・・・そこは大学時代、野球部の合宿で訪れた場所・・・

 

そして・・・

 

俺にとって忘れられないナルとの思い出の場所だった・・・。

 

ナルがもし本当にここにいるならどこか近くに泊まっているはずだ。

まずは虱潰しに当たって行くか。

 

いや・・・それよりも・・・

ナルも大学時代の事を思い出してここに来ているなら・・・

多分、あの合宿の時と同じ所に泊まっているはずだ。

 

だとしたら・・・

 

あそこか・・・っ!

 

俺は合宿の時と同じ旅館を探した。

名前までは憶えていなかったけれど、

外観と当時の記憶を辿っていけば

そう難しいことではなかった。

 

 

そしてその旅館はすぐに見つかった。

旅館のフロントでナルの事を聞くと

まさしく泊まっているという予想通りの答えが返ってきた。

 

やっぱり・・・ここだったか。

 

ナルはここに泊まっていて、いつも海を見に出かけているらしい。

旅館の近くには海があって潮の香りがしていた。

 

そういえば・・・4年前、初めてここに来たときもナルは

綺麗な碧い海に感動して大はしゃぎしてたっけ・・・。

 

 

目の前に広がる碧い海は4年前のあの時と変わっていなかった。

 

ナル・・・いるかな・・・?

 

どこまでも続いていそうな白い砂浜には休日だからか

カップルや家族連れが何組かいた。

その中をナルを探しながら歩いていると、

少し遠くの方に一人で座って海を眺めている女性の姿が目に入った。

 

ナル・・・?

 

一歩一歩近づくにつれ、段々顔がはっきり見えてきた。

 

いた・・・。

やっぱり、ナルだ・・・。

 

「・・・ナルッ!」

まだ少しはなれた距離にいるナルに思わず声をかけた。

よく考えれば、そんな事をすればナルが逃げ出すのはわかりきっている事で。

案の定、ナルは驚いた顔で俺の姿を認めるとすぐに立ち上がって

走り出してしまった。

 

「ナルッ!」

俺はすぐにナルを追いかけた。

 

ナルは結構、足が速い。

それは大学の頃からわかっていたことだけど

この間の澄子ちゃんとの“強制デート事件”の時に

俺のマンションから走り去るナルの逃げ足の速さに

再認識した。

だけど、ここは砂浜。

ナルはあまりスピードが出ていない。

そして段々と縮まるナルとの距離。

 

あと少し・・・

 

あともう少しでナルに手が届く・・・っ!

 

「あ・・・っ!?」

俺が手を伸ばした瞬間、ナルは砂浜に足を獲られた。

 

「ナルッ!大丈夫かっ!?」

座り込んでしまったナルの前に廻り込むと

肩で息をしながら俺とは目を合わさないようにナルは俯いた。

 

「ナル・・・。」

 

「・・・先輩・・・どうして・・・ここにいるんですか・・・?」

 

「どうしてって・・・そんなの決まってるだろ?ナルを迎えに来た。」

 

「・・・え・・・?」

ナルは少し驚いた表情でゆっくりと顔をあげた。

 

俺が迎えに来たのがそんなに意外か・・・?

 

「ナル・・・どうして黙っていなくなったんだよ・・・?」

澄子ちゃんに俺と別れてくれと言われたのが原因なのはわかっていた・・・。

だけど・・・“どうして?”と聞いたのはナルの口から

はっきりと聞きたかったから。

 

“俺を嫌いになったワケじゃない”と言う言葉が・・・。

 

「・・・。」

ナルは澄子ちゃんとの一件を俺が知らないと思っているのか

黙り込んでしまった。

 

「澄子ちゃんに“俺と別れてくれ”って言われたから?」

 

「っ!?」

 

「昨日・・・澄子ちゃんから全部聞いたよ。」

 

「・・・。」

 

「ちょっとした会話をしてて、澄子ちゃんがボロを出して・・・

 それで問い詰めたら全部、白状したよ。」

 

「・・・。」

それでもまだ黙ったままのナル・・・。

 

「・・・それとも・・・ナルは俺の事が嫌いになった・・・?」

 

“違う”と、言うのはわかっている・・・でも・・・

 

「・・・。」

ナルは無言で首を横に振った後・・・静かに涙を流し始めた・・・。

俺はナルが“違う”と首を振ったことにホッとして、肩を抱き寄せた。

 

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