キューピッド・ゴブリン −28−

 

 

――翌日、昼休憩。

昨夜、ライアさんが言っていたギリシャ神話の本を探しに

私は図書室に向かった。

 

 

図書室のドアを開けると中はとても静かで、

隣接しているPC室、自習室からも物音一つして来ない。

どこか別空間のような錯覚を覚えた。

 

そして、ギリシャ神話が載っていそうな本を探しながら

奥へ奥へと進んでいくと、一番奥の本棚の前に

竹之内くんが立っていた。

 

「あ……」

竹之内くんは私に気がつくと少し驚いた顔をした。

 

「……」

まさか竹之内くんがいるとは思わなかった。

 

「何の本探してるの?」

 

「え、と……ギリシャ神話が載ってる本」

私がそう答えると竹之内くんは、

「あー、それなら、この辺にあるよ」

少し高い位置にある本を指差した。

 

(た、高い……)

 

しかし、その本は私が背伸びしても凡そ手が届かないであろう位置にある。

すると、竹之内くんは私の頭上からひょいと手を伸ばし、

「この本でいい?」と三冊程取ってくれた。

 

「あ、ありがとう」

私がお礼を言うと竹之内くんは無言で小さく笑った。

 

そして、閲覧コーナーに移動しようとした時、足元が大きく揺れた。

 

一瞬、眩暈がしたのかと思っていると「レイアッ!」と、

竹ノ内くんに呼ばれ、抱き寄せられた。

 

(え……? 竹之内くん……今、“レイア”って……)

 

訳がわからず、何が起こったのか確認しようと顔をあげると、

「危ないから、顔伏せてて」

と竹之内くんに言われ、本棚から落ちてくる本が

床に散乱したのが視界に入り、地震が起きているんだと把握できた。

 

竹之内くんは私を守るようにしっかりと抱きしめていてくれた。

 

 

地震は数十秒続き、その間、私の頭を庇っている竹之内くんの

左の手の甲に本が直撃したのを感じた。

竹之内くんが庇ってくれなかったら私の頭に直撃していただろう。

 

「あー、びっくりしたー」

地震が治まると竹之内くんは「大丈夫?」と言いながら私から腕を離した。

 

「う、うん……竹之内くんは? 手、大丈夫?」

本が当たった感覚は結構な衝撃があった。

恐らく高い所の本棚から落ちてきた本が当たったのだろう。

 

「平気、平気」

それでも竹之内くんは私に心配かけまいと笑っていた。

しかし、私が「ちょっと見せて?」と竹之内くんの左手を取ると、

少しだけ痛そうな顔をした。

 

「大丈夫じゃなさそう」

 

「平気だよ。ちょっと本が当たっただけだから」

 

「駄目よ、保健室行こう?」

私が少し強引に言うと、竹之内くんは戸惑いながら「……うん」と返事をした。

 

 

 

 

「……よかった、たいした事なくて」

竹之内くんの怪我は幸い、たいした事はなかった。

本の角が当たった気がしたからちょっと心配していたけど

軽い打撲で全治3日と言われた。

 

「ごめんね、心配かけて」

苦笑いしながら竹之内くんが言った。

 

(謝らなきゃいけないのは私の方なのに……)

 

「私の方こそ、ごめんね」

 

「なんで、成瀬さんが謝ってんの?」

 

「だって、私を庇って怪我しちゃったから……」

 

「こんなの怪我の内に入んないよ。それに……

 俺、成瀬さん怒ってるかと思ってた」

 

「どうして?」

 

「いやー、状況的に仕方がなかったとは言え、

 強引にそのー……抱きしめちゃったって言うか……」

竹之内くんはそう言うと顔を赤くした。

 

「お、怒ってないよ……」

そう答えながら私は抱きしめられた時の事を思い出していた。

 

(そういえば……竹之内くん、私の事“レイア”って……)

 

「ねぇ、竹之内くん」

「うん?」

「さっき私の事“レイア”って呼ばなかった?」

「えっ、あー、えーと……」

「竹之内くん、ゲームの中で私と会った事あるの?」

「……」

 

(なんで黙っちゃうの?)

 

「もしかして……」

 

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