キューピッド・ゴブリン −32−
――24日。
この日は朝から雪が降っていた。
小さな白い妖精が空から舞い降りてくるように、
ふわふわふわふわ……
そして夕陽に照らされ、茜色に染まった一面の銀世界を窓から眺め、
私は竹之内くんの事を考えていた。
(竹之内くんのキャラクターて一体……?)
それに今日の夜、『空中庭園』で待ってるって――。
部屋の時計が21時45分を指しても、私はパソコンの電源さえも入れていなかった。
(22時に『空中庭園』にいるのが竹之内くんのキャラってコトよね……?)
21時50分。
(竹之内くん、実は私と同じサーバーだったのかな?)
サーバーが同じじゃないといくら『空中庭園』で待っていても会えない。
私はとりあえず、パソコンの電源を入れた。
21時55分。
(竹之内くんはもうログインしているのかな?)
デスクトップにあるゲームのショートカットアイコンをダブルクリック。
とりあえずゲームを起動した。
(もし……竹之内くんのキャラが本当にライアさんだったら……)
そう思うと、キャラクター選択画面の先へ進めない。
22時。
とうとう約束の時間になってしまった。
(竹之内くん……待ってるかな?)
レイアのキャラクターを選択し、思い切ってログインボタンをクリックした。
いつものローディング画面さえもとても長く感じる。
そして、町の中にレイアのキャラクターが現れ、
一番最初にライアさんをサーチで捜した。
(いない……)
ライアさんはログインしていなかった。
(ライアさんが竹之内くんのキャラじゃないの?)
しかし、時間はまだ22時を過ぎたばかりだ。
少し遅れているだけなのかもしれない。
22時05分。
私は『空中庭園』に向かった。
(竹之内くん、来るかな?)
22時10分。
『空中庭園』まであと少し……心臓が早鐘を打ち始めた。
私は『空中庭園』の手前のエリア・『ユナ神殿』の最後の扉の前、
思わず立ち止まった。
この扉の向こうはもう『空中庭園』だ。
「……」
パソコンのモニターの前、『空中庭園』に繋がる扉を見つめながら進めずにいた。
22時15分。
もう一度、ライアさんをサーチしてみた。
しかし、やっぱりライアさんはログインしていなかった。
それに私が来てからここを通った人はいない。
『空中庭園』へはこの扉を通らないと行けないから
竹之内くんがライアさんだという線は消えた。
それなら竹之内くんのキャラクターは私が知らない全然別の
誰かでもう『空中庭園』で待っているのかもしれない。
(でも、前日にライアさんが『空中庭園』でログアウトしていたら……)
考えていても埒が明かない。
私は、思い切って『空中庭園』への扉をクリックした。
ローディング画面になり、緊張でカラカラになった喉を
ココアで潤しながらパソコンのモニターを見つめていた。
そして、『空中庭園』に画面が切り替わるとそこには……
オーリーがいた――。