キューピッド・ゴブリン −Epilogue−

 

 

――翌日、12月25日。

 

13時50分。

約束の時間よりまだ10分も前、原宿駅の表参道口の改札で

俺は“彼女”を待っていた。

 

昨夜の事を思い出しながら軽く息を吐き出すと、

すぐに白くなって消えていった。

 

 

13時55分。

“彼女”が乗っていると思われる路線の電車が到着した。

大勢の乗客が改札を通り過ぎてその中から“彼女”の姿を捜した。

背が低い彼女は見つけるのに少し苦労した。

人ごみに紛れて見えなかったから。

 

「沙耶」

改札を抜ける直前でようやく沙耶を見つけ出した。

俺が名前を呼ぶとすぐに視線を絡ませてきて、少し恥ずかしそうに

笑いながら小さく手を振った。

 

 

「あ……雪」

駅を出ると雪が降っていた。

 

「ホワイトクリスマスだね」

俺は沙耶と手を繋いでコートのポケットに入れた。

 

「うん」

すると沙耶は軽く手を握り返してきた。

 

俺と沙耶は昨夜、お互いの気持ちを確かめ合った。

 

……ゲームの中でだけど。

 

でも、俺はちゃんと彼女に直接逢って言いたかった。

 

“沙耶の事が好きだ”と……

 

呼び方も今までは“成瀬さん”と“竹之内くん”だったけれど

“沙耶”と“慧くん”になった。

ゲームの中では相変わらず“オーリー”と呼び捨てに出来るのに

リアルじゃ“慧”と呼び捨てに出来ないあたりが彼女らしい。

 

「沙耶、好きだよ」

耳元で囁くと彼女は少し驚いた顔で俺を見上げた。

 

そして嬉しそうに恥ずかしそうに、

「私も、慧くんの事、好き」

微笑みながら言った――。

 

 

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