HERO −3−

 

 

―――翌日、日曜日。

昼飯を食った後、自分の部屋で雑誌を見ていると

タカから電話が掛かってきた。

 

「もしもし?」

 

『もしもし、今日、夕方から暇?』

 

「うん?とりあえず予定ないけど?」

 

『じゃあさ、『ホタル祭り』行かね?』

 

「『ホタル祭り』?」

 

『うん、まぁ“祭り”って言ってもホタルを見るだけなんだけど。』

 

「へぇ、でもそれ良さそう!行く、行く!」

 

『おぉっ!やった!これで璃桜ちゃん誘えるっ!』

 

「・・・坂本さん?」

 

『うん、ホントはさー、璃桜ちゃんと二人で行きたいところなんだけどさ、

 アキがいきなり二人でって言うのは璃桜ちゃんが嫌がるんじゃないかって言うから

 それなら、お前とアキも誘えばいいかなーっと思って。』

 

「なんだ、そーゆーコトかよ・・・。」

 

『んじゃ、駅に6時半な。』

タカはそれだけ言うとさっさと電話を切りやがった。

 

・・・てか、タカの奴・・・坂本さん狙ってんのか・・・。

 

 

―――午後6時半。

待ち合わせ場所の駅に着いた俺の目に真っ先に飛び込んできたのは

坂本さんの姿だった。

裾にレースのリボンがついているデニムのクロップドパンツを穿いている。

昨日のミニスカートも可愛いと思ったけど、細くてきれいな足をしている所為か、

惚れた弱みなのか・・・制服とは違う彼女の姿にやられた。

 

“惚れた弱み”・・・と言うのも、俺は高校に入ってからずっと

彼女に片想いをしていた。

最初は、毎朝電車が一緒になる可愛い子だな・・・と思うだけだった。

だけどそれがいつの間にか段々、彼女の姿を目で追う様になっていた。

名前も学校もわからない・・・唯一つわかっていることは

水色が好きだという事。

彼女はよく水色の物を持っていた。

定期入れや腕時計、冬の寒い日はマフラーと手袋も水色が基調になっている物だった。

だからきっと水色が好きなんだろうな・・・と思った。

先日、俺が落とした定期入れも彼女を意識して買った物だ。

 

「お、来た、来た。」

タカとタカの従兄弟、栗田さんは俺に気が付くとにやりとした。

 

「こんばんは。」

背があまり高くない坂本さんは俺の顔を見上げるように

視線を合わせ、笑ってくれた。

 

昨日は無理矢理連れて行かれた合コンで彼女に会えて、

しかも定期入れを届けてくれた女の子が坂本さんだとわかって嬉しかった。

だけど、いろんな邪魔が入ってまともに彼女と話すことが出来ず、

結局、携帯の番号も聞けず仕舞いだった。

でも今、俺だけにこうして笑顔を向けてくれた事が

結構・・・いや、かなり嬉しかったりする。

 

だけど・・・その幸せはそう長くは続かなかった。

 

「んじゃ、行こか。」

そう言ってタカはいきなり坂本さんと並んで歩き始めた。

 

・・・先を越された・・・。

完全に出遅れた・・・。

 

俺はちょっとヘコみながら二人の後ろを歩き始めた。

唯一つ救いだったのは、俺の隣に並んだ栗田さんが

昨日の合コンに来た女共みたいにべらべらと自分の事ばかり喋ってこない事だった。

時々、自分の話も交えながら坂本さんの事を話してくれた。

 

「あ、そういえば・・・一昨日、坂本さん遅刻とかしなかった?」

 

「窪田くんに定期入れ届けた日?」

 

「うん、そう。」

 

「あー、なんかギリギリに来たけど、遅刻はしなかったよ?」

 

「そっか・・・それならよかった。

 ちょっと気になってたんだ・・・。」

俺の所為で坂本さんが遅刻したりしたら洒落にならない。

俺の学校もそうだけど、兄妹校の女子高の方も

遅刻にはかなり厳しいからだ。

俺の学校では遅刻をすると放課後、道場の畳の上で2時間の正座。

女子高の方も茶道室で2時間の正座らしい。

 

「・・・璃桜も気にしてたっぽいよ?」

 

「え?」

 

「“ちゃんと定期入れ無事に戻ったかなぁ・・・?”って。」

 

あ・・・そっちの“気にしてた”ね・・・。

 

「・・・そう、なんだ?」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・もしかしてさ?」

しばしの無言の後、栗田さんは何か言いたげに

俺に耳を貸すよう手招きした。

 

「・・・ん?」

 

「窪田くんも、璃桜の事・・・狙ってんの?」

俺が耳を近づけると栗田さんは前を歩いているタカと坂本さんに

聞こえないように囁いた。

 

・・・“も”って事は・・・やっぱタカもなのか。

 

「・・・。」

俺が否定も肯定もしないのを栗田さんはどう受け取ったのか

わからないけれど・・・

なにやら少し口の端をちょっとだけあげた。

 

そして、少しだけ歩くスピードを遅くして前の二人と距離をとった。

 

「実は璃桜ってさ、昨日・・・初めてだったんだよ。」

 

「へ?」

 

何が・・・?

 

・・・ま、まさか・・・

 

俺が帰った後に・・・タカの奴ともう・・・

 

「合コン。」

 

「・・・あ・・・そなの?」

好からぬ妄想をしていた俺はちょっとだけ拍子抜けした。

 

「うん、今まで何回誘っても来なかったんだよねー。」

 

「へー、なんで?」

 

「んー、璃桜はちょっと人見知りって言うのもあるけど

 私みたいにチャラチャラしてないからねー。」

 

「ふーん・・・。」

 

「・・・ちなみに、璃桜はちょっと強引な位がいいと思うよ?」

 

「何それ?」

 

「まぁ、所謂“押し”に弱いってヤツ?」

 

「・・・てか、なんで俺にそんな事言うの?

 栗田さんはタカの方を応援してるのかと思ったけど・・・?」

 

「あー、確かにタカも璃桜を狙ってるって言ってたけどね。」

 

やっぱな。

 

「でも、璃桜はタカの事、苦手なんだと思うよ?」

 

「なんで?」

 

「タカはグイグイ行き過ぎだから。」

 

「・・・?」

 

「要するに、強引すぎるって事。

 それにチャラチャラしてるし。」

 

「なるほど・・・。」

 

「“ちょっと強引”・・・これがミソ。」

 

「・・・覚えとくよ。」

 

 

それから、俺達4人は『ホタル祭り』の会場・・・と言っても

雑木林に囲まれた川辺だけど・・・に着いた。

 

だけど・・・そこで、俺は会いたくない人物と会ってしまった・・・。

 



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