HERO −4−
「あ、窪田くんっ。」
『ホタル祭り』が行われている川辺を歩いていると、
私達の目の前に3人グループの女の子達が来た。
その中の一人は、私も見覚えがある子だった・・・。
以前、窪田くんが痴漢から助けた女の子・・・。
その子はすぐに窪田くんに駆け寄ると可愛く笑っていた。
私は思わずその二人から目を逸らした。
「ねぇ、私達も一緒にいい?」
「え・・・。」
窪田くんは少し言葉に詰まっていた。
「いいんじゃね?」
軽くそう答えたのは私の隣にいた相葉くんだった。
「やった!」
その女の子は嬉しそうに言うとさっそく窪田くんと歩き始めた。
なんか・・・おもしろくないな・・・。
別に窪田くんと付き合ってるワケじゃないし、
ただ毎日電車が同じっていうだけだけど・・・
そりゃ・・・二人で来たワケでもないし。
人数が多いほうが楽しいのかもしれないけれど・・・。
・・・てか、窪田くんは何も言わないんだね?
嫌なら嫌って言うだろうし・・・。
むしろ・・・嫌じゃないから断らなかったのかな?
いろんな事を考えながら・・・ため息をつきながら
そして、ちょっとショックを受けながら歩いていると
ゴロゴロと転がっている石に躓いた。
「きゃっ・・・!?」
見事にバランスを崩して、転びそうになった私を
支えてくれたのは一緒に歩いている相葉くんだった。
がっちりとした腕に支えられ、私は相葉くんの胸の中へ
吸い込まれるように倒れこんだ。
「あ・・・ご、ごめんっ。」
慌てて体を離して、横目で窪田くんをちらっと見た。
・・・すると・・・窪田くんはバッチリその様子を見ていた。
あ〜ぁ・・・一番見られたくない人に見られちゃったな・・・。
―――8月。
夏休みの間にある登校日。
いつもと同じ時間の同じ電車、同じ車両に乗って、
窪田くんが乗ってくるかも・・・と少し期待をした。
だけど、窪田くんは乗って来なかった・・・。
兄妹校といえど、さすがに登校日は別か・・・。
ちょっとがっかり・・・。
放課後・・・と、言ってもお昼前。
特に授業もなく、先生の話があるだけで学校が終わり、
アキと一緒に教室を出て、正門に向かって歩いていると、
門柱の日陰に立っている男の子の姿が目に入った。
そして、その男の子は私の姿を捕らえると
無言で近づいてきた。
「く、窪田くん・・・?」
どうして、窪田くんがこんな所に・・・?
「ちょっと・・・いい?」
窪田くんは通りすがりにぶらりと立ち寄った感じでもなくて、
それは明らかに1時間くらい待っていたと思われる汗をかいていた。
私達3人は駅の近くにあるファーストフードに入った。
お店の中は冷房が効いていて、夏の暑さと
私の顔の火照りを一気に冷ましていった。
「ところでなんであんな所にいたの?」
私の聞きたい事をアキはさらりと窪田くんに聞くと
冷たい氷が入ったジュースのストローに口をつけた。
「・・・あのさ・・・、明日なんだけど・・・暇?」
アキが聞くまで黙っていた窪田くんはようやく本題に入った。
私はてっきりアキに言ってるんだと思って黙っていると
「璃桜に聞いてるんだよ?」とアキに言われた。
「へ?」
私?
「暇だけど・・・。」
いや・・・てか、アキにも聞いてるよね?
「花火大会行かない?」
私の真向かいに座っている窪田くんはアキの返事も聞かずに話を進めた。
「え・・・あ、うん。」
とりあえず私は「うん。」と答えてアキの反応を待った。
待ったけど・・・
「・・・。」
私の隣に座っているアキはおいしそうにポテトを食べている。
「・・・アキも行くよね?」
私がそう聞くと「ん?私は明日、予定があるから。」と
あっさり言われた。
・・・え?
じゃ、明日は窪田くんと二人?
「じゃあ、明日6時に駅で待ってるから。」
窪田くんはにっこり笑った。
あ、でもきっと相葉くんも来るよね?
「うん・・・わかった。」
アキが来ないのは残念だけど、窪田くんと二人きりは
正直まだ恥ずかしいというか・・・どうしていいかわからない。
でも、相葉くんも来るならきっとそんなに緊張せずに済む・・・かも?
―――次の日。
待ち合わせの駅に着いて改札を出たところで窪田くんを見つけた。
「窪田くんっ。」
窪田くんは私じゃない声に振り向いた。
私が口を開くよりも先に誰かの声が窪田くんを呼んだ。
私は少し後ろから聞こえた声に振り返ってみた。
またあの女の子達だった・・・。
「窪田くんも花火大会行くの?だったらまた一緒していい?」
窪田くんが痴漢から助けた女の子はニコニコしながら
窪田くんに駆け寄っていった。
・・・窪田くん・・・この間も嫌って言わなかったし、
きっと私なんかよりあの子達と居た方が楽しいんだろうな・・・。
窪田くんはきっと私が居た事に多分気付いていないはず、
だって、視線はあの子達の方に向いていたし、
このまま私が帰っても何も言われない。
相葉くんには・・・後で電話しておこう。
私はそのまま黙って踵を返した。
ホームに行くとちょうど電車が入って来るところだった。
電車がホームに停車してドアが開き、
私が乗ろうとした瞬間、いきなり後ろから腕を引っ張られた。
「っ!?」
何っ!?
引っ張られた勢いで後ろに倒れそうになりながら
振り向くと、窪田くんが私の腕を掴んでいた。
嘘・・・っ!?
「なんでいきなり帰ろうとしてんだよっ!?」
「な、なんでって・・・」
バレてた・・・?
「あの子達が居たから?」
その通り・・・。
「・・・。」
私は無言のまま頷いた。
発車のベルが鳴り響き、電車のドアが閉まった。
あ・・・て、もう捕まっちゃったから
次の電車で帰るわけにも行かないか・・・。
「行こう。」
窪田くんはそう言うと私の腕を掴んだまま改札に向かって歩き始めた。
あの子達と一緒に行ったんじゃなかったの・・・?
そう聞きたくて、でも聞いてしまえば「待たせてるから一緒に行こう。」
とか言われるのが嫌で・・・
窪田くんが引っ張っている力で歩いている状態で
改札の手前まで来ると、あの子達がいた。
窪田くんを捜しているみたいだ。
私はぴたりと足を止めた。
すると窪田くんは私の方に視線を向けて
「俺、あの子達とは行く気ないよ?」
と言った。
「えっ。」
私はその言葉にハッとして顔をあげた。
窪田くんは私に少しだけ微笑みかけると
掴んでいた腕を放して手を繋いできた。
そして一緒に改札を通るとあの子達の方に
ツカツカと歩いて行った。
・・・で、案の定、あの子達に見つかった。
「窪田くん、急に走り出すからどうしたのかと思った。
ね、早く行こうよ。」
痴漢から助けた女の子はにっこり笑って近づいてきた。
窪田くん・・・一緒に行く気ないってさっき言ったけど・・・
この子達の方は一緒に行く気満々だよ?
「彼女と一緒に行くから・・・だから、一緒には行かないよ。」
どうするのかな?と思っていたら、
窪田くんはあっさりとその女の子達に言い放った。
「え・・・彼女って・・・窪田くん、
この間“彼女”いないって言ってたじゃない。」
痴漢から助けてもらった子は怪訝な顔をした。
・・・え?
えぇ・・・っ!?
彼女・・・って・・・そーゆー意味の“彼女”?
違うよね?
「言ったけど、でも今はこの子と付き合ってるから。」
窪田くんはそういうと地味に後ずさりしていた私を
ぐぃっと引き寄せた。
う、うそぉー?
「じゃ、そういう事だから・・・璃桜、行こう。」
そして、女の子達を残し、“璃桜”と呼ばれた事にさらに
びっくりしている私を連れて歩き始めた。
「あ、あの・・・窪田くん・・・?」
「ん?」
「な、何も“彼女”って嘘つくことは・・・」
「なんで?嘘じゃないけど?」
「え・・・で、でも・・・」
私、何にも聞いてないよー?
「俺、璃桜の彼氏になる事に決めたから。」
「そ、そんなのいつ決まったのっ!?」
「ついさっき。」
「へ?」
「タカに取られる前にと思ってさ。」
「あっ!?そういえば相葉くんは?」
相葉くんがまだ来てないのに、
花火大会に行っちゃマズいでしょ!?
「タカ?」
「相葉くんも来るんでしょ?」
「来ないよ。」
「えっ!?」
「今日はタカが来れないのをわかってて、璃桜の事誘ったんだよ。
ちなみに、栗田さんもそれをわかってて俺に協力してくれたってワケ。」
「・・・。」
マジデスカー?
「そんな事よりさっきの話。」
「・・・へ?」
「俺が彼氏じゃ璃桜は嫌?」
そう言うと窪田くんは真剣な目で私の顔を見つめた。
「・・・嫌じゃないよ。」
嫌な訳ないじゃん・・・。
「じゃ、決定。」
窪田くんはにこっと笑った。
そして・・・
ヒーローは“私だけのヒーロー”になった・・・。
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