言葉のかわりに−第一章・12−
唯と香奈が目の前に座り、土曜日の事を話し始めた。
「ライブ来てくれてありがとう!」
「え?私達が来てたの気づいてたの?」
「うん!」
「客席は暗いし、後ろのほうにいたから気づいてないかと思ってた。」
「前座が終わった後、機材のセッティングしてる時に客席をチラ見したから。」
「あー、それでかー。」
拓未と香奈が話しているのを彼女は楽しそうに聞いている。
「で、どうだった?俺達のライブ。」
拓未が少し身を乗り出し、二人に聞いた。
俺が一番聞きたくて聞けなかった事をさらりと聞きやがった。
・・・というのは、土曜日は時間が遅くて電話ができず。
日曜日はずっと彼女の携帯がつながらないままだった。
ひょっとしてワザと電源を切っているのか・・・?と思ったくらいだ。
月曜日になり、学校へ行くと朝からさっそく女の子達に掴まった。
(これじゃ神崎さんのとこに行けそうにないな・・・。)
俺は心の中で小さく舌打ちした。
そんなワケで今の今まで話ができず、イラついていた。
(てか、なんで俺イラついてんだ?)
「すごくよかったよー!全部よかったけど、1曲目とか超好きな曲!
あとアンコールでやった曲も好き!」
香奈は少し興奮気味に感想を話し始めた。
「マジ?1曲目でやった曲とアンコールでやった曲、俺も好きなんだ!」
「新曲もよかったよ!特にギターソロ!」
「おおぉっ!あのギターソロは俺も特に気に入ってるんだよ!気が合うねーっ!!」
そう言って拓未はガシッと香奈と両手で固い握手をした。
「唯ちゃん。」
誰かが彼女の名前を呼んだ。
振り向くと、中学生くらいの男の子が立っていた。
「あ、ヒロくん。」
彼女はそう言いながら“ヒロくん”に手を振った。
(・・・誰だ?)
「僕、昨日からずっと唯ちゃんの携帯かけてんのに電源切ってるみたいだし、
・・・てかここの前を通ったら、唯ちゃんがいたから。」
(そう、そーなんだよ!繋がらねぇんだよ!・・・てか、誰なんだ?)
「えっ!?ウソッ?」
彼女は慌てて携帯を取り出す。
「あ、ホントだ!土曜日ライブ見に行って切ったの忘れてた・・・ごめん。」
(おいおい・・・、電源切ってたの忘れてたのかよぉ・・・。)
俺はなんだか力が抜けた。
「何か急ぎの用でもあったの?家の方に電話くれればよかったのにー。」
(こいつ神崎さんの家の電話も知ってるのか。)
「あー、うん。今日のレッスン代わって貰えないかと思って。」
(レッスン?)
「うん、いいよ。何時からだっけ?」
「6時からー。」
「わかった。じゃ、先生には私から言っておくね。」
「ごめんね急に、ありがと。」
「気にしないでー、私もレッスン代わって貰うことあるし。」
「助かるよ。それじゃ、よろしくー。」
そう言って“ヒロくん”は去っていった。
「ごめん、急にレッスンがはいっちゃったから行かなきゃ。」
またねと言って彼女は立ち上がり、帰ってしまった。
結局、俺は一言も話すことができなかった・・・。
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