言葉のかわりに−第一章・14−

 

 

唯はレッスンが終わり、すっかり暗くなった家路を急いでいた。

いつもは2時間のレッスンが今日は唯の後レッスンする生徒がいなかった為、

先生の熱も入り長くなった。

(すっかり遅くなっちゃったな・・・。)

そんな事を思いながら歩いていると、後ろから自転車で追い越されかけた人物に名前を呼ばれた。

「神崎さん!?」

和磨だった。

「篠原くん!?」

「「何でこんなところにいるの?」」

二人同時に口を開いた。

それが可笑しくてまた同時にプッと吹き出す。

和磨は自転車を降り、唯の隣に並んで歩き始めた。

「神崎さん、ピアノの帰り?」

突然帰った詳しい理由をおそらく香奈から聞いたのだろう。

「うん。篠原くんは?」

「あ、俺バイトの帰り。」

「そーなんだ。」

「・・・。」

「・・・。」

(な、何話せばいいんだろ・・・?)

しばしの沈黙の後、和磨がようやく口を開いた。

「ライブ来てくれてありがとう。」

「あ、うん。」

「・・・。」

「・・・。」

ずっと和磨と話がしたかったはずなのに、次の言葉がなかなか出てこない。

「どう・・・だった?」

「すごくよかったよ。」

ようやく出てきたのは在り来たりの言葉だけだった。

「・・・。」

「・・・。」

(もっといっぱい伝えたい事があるのに・・・、なんて言えばいいのかな・・・?)

お互い次の言葉を考えていると、唯の家の前まで来てしまっていた。

「あ、そ、それじゃ。おやすみなさい。」

唯が慌てて和磨に言う。

「う、うん。おやすみ。」

和磨もそう言って返事を返す。

唯が玄関を開け、家の中に入ろうとした時、

「よかったらまた来て?」

背後から和磨にそう言われ振り返った。

(え・・・?)

「ライブ・・・よかったらまた来て?」

正直、また来てと言ってくれるとは思っていなかった。

和磨に伝えたい事の半分も言えないでいたからだ。

「うん!」

唯は嬉しくて笑顔で応えた。

 



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