言葉のかわりに−第一章・15−
ほんの少しの間だが彼女と話ができた。
ライブもすごくよかったと言ってくれた。
また来てと言ったら、笑顔でうんと言ってくれた。
和磨は昨夜の唯との会話を思い出していた。
「朝から何ニヤニヤしてんだ?」
不意に拓未にそう声を掛けられ、一気に現実へと引き戻された。
「別に・・・ニヤニヤなんかしてねぇよ。」
「してたぞ。」
「・・・。」
自然と顔が緩んでいたんだろうか。
「なんかいい事でもあったのか?」
拓未がにやりとした。
「別に・・・なんも。」
「バイト先にかわいい子が入ってきたとか?」
「入ってきてねぇ。」
「バイトの時給があがったとか?」
「あがってねぇ。」
「んじゃ、バイトの帰りにすっげー美人に逆ナンされたとか?」
「されてねぇ。」
「えー、じゃなんだよー?」
「だから、なんもねぇって。」
「そんなワケないだろ。」
「・・・。」
「昨日俺らと別れるまでは機嫌悪かったのに、今朝は超機嫌良さそうじゃん。」
「・・・気のせいだ。」
「ふーん。」
拓未は本当に?と言った感じで和磨の顔を覗き込んだ。
「なんだよ?」
「もしかして・・・唯ちゃん絡みか?」
拓未は鋭い。
いや、本当に・・・。
時々この鋭さがムカつく。
「・・・ち、ちがう。」
とりあえず否定して視線を外す。
和磨の反応を見て拓未はニヤリと笑った。
確かに昨夜唯と会ってから機嫌が直った。
いや、むしろ良くなった。
機嫌が悪かった原因も彼女だ。
しかし、それは話がしたくてもできなかったから。
(なんか俺おかしいな・・・。)
(前はこんなことなかったのに、なんなんだ?)
和磨はよくわからない自分の感情に首を捻った。
放課後、下校しようと和磨が正門に向かっていると
体育館の裏へと向かっていく唯の姿があった。
(神崎さん、何しに行くんだろ?)
体育館の裏は特に何もなく、ただベンチが置いてあるだけだ。
普通何か用事があって行くような場所ではない。
和磨は自然と唯の後を追っていた。
「前からずっと神崎さんの事が好きだったんだ。」
(げっ!)
体育館の裏へ行くと、まさに告白シーンが展開されていた。
(マジかよ・・・。)
「僕と・・・その・・・つきあってほしいんだ。」
和磨は二人の死角になる位置からその相手を確かめた。
(あれは・・・3組の岡本?)
2年3組の岡本啓太。
バレー部のエース。
長身で顔はどちらかと言えば和磨と違いかわいいタイプ。
その為、女子に人気がある。
「返事はすぐじゃなくていいから。」
唯は黙ったまま岡本を見つめている。
というか固まっている。
そんな唯を見て、居た堪れなくなったのか「・・・じゃ、考えといて!」
そう言って岡本はそそくさと立ち去った。
唯はただボーゼンとしていた。
(ここは黙って見なかったことにしたほうがいいよな・・・。)
そう自分に言い聞かせ、和磨はゆっくりとその場から立ち去った。
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