言葉のかわりに−第一章・17−
次の日の放課後、和磨は昇降口で立ち尽くしていた。
(やられた・・・。)
6月に入り、梅雨も近くなってきた時期ではあるが朝は晴れていた。
ところが、それが今はどしゃ降りになっているからだ。
家までの距離を考えると、走ってもずぶ濡れになる事はまちがいない。
このまま雨宿りしていても止みそうにないので、
一番近くのコンビニまで走って、傘を買って帰ろうか。
そう思い、走り出そうとした時「篠原くん?」と声を掛けられた。
振り返ると唯が立っていた。
「あ、神崎さん。」
「あれ?・・・篠原くん、傘は?」
どしゃ降りなのに傘を持っていない事に気づいたのか、不思議そうに尋ねてきた。
「あー、朝晴れてたから、いらないと思って持ってこなかったんだ。」
「えっ!?天気予報見てないの?今日は夕方から降水確率80%だよ?」
「マジ?」
「マジ。」
和磨の反応が可笑しかったのか、唯はクスクスと笑いながら和磨の言葉を繰り返した。
「じゃあ・・・あの・・・よかったら・・・傘、入っていく?」
彼女は少し恥ずかしそうに上目遣いで言ってきた。
(・・・え?)
唯からの思わぬ申し出に驚いた。
自分は今、いったいどんな顔をしているのだろう・・・?
「あ・・・やっぱりイヤ、だよね?私と相合傘なんて・・・。」
黙っている和磨を見て彼女は後悔したように言うと少し俯いた。
その時、和磨の視界に岡本啓太の姿が映った。
昨日、唯に告白した男子生徒だ。
唯からは死角になっていて岡本の姿は見えていないようだ。
「ありがとう、入れてもらうよ。」
和磨はなるべく平静を装い、唯に微笑みながらそう言った。
唯も顔をあげて和磨を見ると「うん。」と小さく言って微笑んだ。
和磨が傘を持ち、二人でゆっくりと歩き出す。
二人の身長差が約30cmもあるので、まともに傘をさすだけでは唯の肩を濡らしてしまう。
和磨は傘を唯の方に少し傾けた。
その様子を岡本が見ていたのを和磨はもちろん気づいていた。
正門を出たあたりでふと和磨は気がついた。
「ところで上木さんは?」
唯と香奈はいつも一緒に帰っているので違和感を感じたのだ。
「望月くんと一緒に帰ったよ。」
「拓未と?」
「うん。」
「ふーん・・・。」
(神崎さんを置いて帰るなんて珍しいな・・・ケンカでもしたのか?)
和磨はちらりと唯を横目で見る。
・・・よくわからなかった。
それから二人は他愛のない会話をしながら歩いた。
あっという間に和磨の家に着いた。
「ありがとう、助かったよ。」
「ううん、それより篠原くん肩、結構濡れちゃってる・・・。」
「あー、これくらい全然平気だよ。」
和磨が優しく微笑む。
「ちゃんと拭かないと風邪ひくよ?」
そう言って心配そうにハンカチで和磨の濡れた肩を拭き始めた。
「え・・・?あ、ありがと・・・。」
和磨は顔と体が熱くなるのがわかった。
(やべぇ・・・かなり顔赤くなってるかも・・・。)
心臓の音も大きくなって、彼女に聞こえてしまうような気がした。
どうやって動揺しているのを誤魔化そうかと考えていると、
「あ・・・家に入って着替えたほうが早いね。」と唯が笑った。
確かにそうだ。
和磨は、早く家に入って着替えてと言う唯に、大丈夫だからと言って
唯の姿が見えなくなるまで見送った。
次の日、昼休憩に和磨は岡本に呼び出された。
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