言葉のかわりに−第一章・19−

 

 

和磨は高校に入ってから、バンドの活動資金とお小遣い稼ぎを兼ねてバイトをしている。

家から自転車で10分の距離にあるコンビニだ。

土曜日、店長から急に呼び出され急遽夕方からバイトにはいっていた。

いつもは夜9時までだが、この日は夜10時であがることになっている。

あと少しで10時。

和磨と交代ではいる大学生の相田繁之がきた。

同じ様にバンドのヴォーカルをやっていて、

よくいろいろ教えてもらっているアニキ的な存在だ。

「よぅ、和磨。」

「ちぃーす。」

「珍しいな、おまえが土曜日の夜にいるなんて。」

「店長に呼び出された・・・。」

「ははは、なるほどな。」

「そーゆー繁兄も。」

「まぁ、実は俺も同じだ。」

「あはは。」

そんな会話をしていると10時になった。

「お、時間だ。和磨お疲れ。」

「お疲れっす。」

そう言って、繁之と軽くタッチして和磨は控室へ行った。

上に着ていただけの制服を脱ぎ、ロッカーに納める。

控室から出て、店内を通り過ぎようとした時、

自動ドアが開き、お客が入ってきた。

長身の男性に小柄な女性。

カップルのようだ。

入ってすぐに、奥のドリンクの方へ向かったので、顔は見えなかった。

男性は濃紺のスーツを着ていて、女性のほうは淡いブルーのワンピースを着ている。

(あの女性、神崎さん並に背が低いな・・・。)

そんな事を思っていると、

「唯、カゴ持ってきて。」

「うん。」

そんな会話が聞こえてきた。

思わず、足を止めてカップルの方を見る。

(唯・・・って?神崎さん・・・?)

(いや、まさかな・・・。)

そう思いながら、和磨の目の前に積み上げられたカゴを取りに来た女性の顔を見る。

(え・・・。)

「か、神崎さんっ!?」

またしても唯だったのだ。

「篠原くん!?」

(こんな事って・・・。)

「篠原くん、お買い物?」

「いや、俺ここでバイトしてるんだ。」

「そーなんだ。もう終わったの?」

「うん。神崎さんは?」

「私はコンサート見に行った帰り。」

「コンサート?」

「うん、新東京フィルハーモニー交響楽団。」

「へぇー、それでそんな格好なんだ?」

「うん、一応ちょっとフォーマルに。」

そう言ってにっこりと笑う。

服に合わせてメイクもしているせいか、いつもと少し雰囲気がちがう。

「唯?どうした?」

なかなかカゴを持ってこないのを不審に思い、

唯と一緒にいた男性が声を掛けてきた。

(そういえば、あの男誰だ?)

「あ、なんでもない。」

そう言って、じゃあねと言って男性の方へ駆け寄っていった。

男性は自分より5歳くらい年上だろうか。

スーツも綺麗に着こなしていて着馴れているようだ。

(大人の男ってやつか・・・。)

楽しそうに仲良く買い物をする姿は付き合いが長いカップルのように見えた。

 



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