言葉のかわりに−第二章・10−
「Kazumaく〜んっ!頑張って〜っ!」
いつの間にか、ファンの子が数人来ていた。
ボールを投げようとした瞬間、その声で和磨の手元が狂った。
「あ・・・。」
唯が小さく声をあげた瞬間、ボールは7番の外側に大きく外れ、
そしてゲーム終了・・・。
結局、抜いた枚数は8枚。
とはいえ、かなり良い成績だ。
最後のあの声がしなかったら、9枚とも全部抜けていたかもしれない。
和磨はその声の主をちらりと見た。
「・・・。」
無言でマウンドを降り、野球部員から景品を受け取った。
唯が和磨のところへ行こうとしていると、
その声の主がすばやく和磨に駆け寄っていった。
その後に続いて他のファンの女の子も駆け寄っていった。
(はぁ・・・、どーしよ・・・あれじゃ近づけないよ・・・。)
唯は俯いて小さくため息をついた。
「神崎さん。」
不意に名前を呼ばれ、振り返るとクラスメイトの
戸田直樹が立っていた。
「一人?上木さんは?」
「あ、今、別行動してるの。」
「珍しいね、神崎さんが上木さんと別行動なんて。」
「そ、そぉ?」
「だっていつも一緒にいるじゃん。」
「あはは、そうだね。」
唯と直樹は二人でクスッと笑った。
「戸田くんは?」
「あ、俺、野球部。」
直樹はにっこり笑った。
「そうだったんだ。」
「うん。・・・そういえば、俺、神崎さんとあんまり話したことないな。」
「そうだっけ?」
「だってその証拠に俺が野球部だったの今初めて知っただろ?」
直樹はニヤリとした。
「うん、そうだね。」
唯は苦笑しながら答えた。
「ところで神崎さんも篠原の応援?」
「え?・・・う、うん。」
「相変わらずすごい人気だな、篠原・・・。」
そう言って直樹は和磨をちらりと見た。
「てか、もしかして・・・篠原と付き合ってたりする・・・?」
「・・・っ!」
いきなり直球で聞かれ、唯は言葉に詰まった。
唯と和磨が手を繋いで歩いていたのを直樹は見ていたのだろうか。
(う・・・なんて答えよう・・・。)
唯が答えに迷っていると「唯。」と和磨の呼ぶ声がした。
振り向いた瞬間、腕を掴まれ「行こう。」と言って引っ張られた。
「あ・・・、うん。」
唯はファンの子達を気にしながら、和磨と歩き出した。
和磨はなんとなく不機嫌に見えた。
(9枚全部抜けなかったからかな?)
「あ、あの・・・かず君・・・?」
「うん?」
「上着・・・着ないと。」
「あ?あぁ・・・。」
唯は上着とネクタイを和磨に渡した。
「ごめん、ちょっと持ってて。」
そう言って和磨はペアマグカップが入った紙袋を唯に渡した。
「結局、ペアマグ・・・。」
和磨が少し落ち込んだ様子でボソっと呟いた。
「でも、8枚抜きはすごいよ?」
「俺はディズニーのパスポート狙ってたのに・・・。」
「でも、ペアの物がまた一個増えたんだし。」
唯は柔らかく微笑んだ。
「まぁ、そうだけど・・・。」
「ディズニーは今度一緒に行こう?」
唯がそう言うと、
「・・・うん、そうだな。」
和磨もようやく唯に笑みを返した。
帰りに二人であの公園の展望台に行き、ペアマグを開けてみた。
「わぁ、かわいい・・・。」
「これ、ガラス?」
中身は耐熱ガラスでできたグラスマグだった。
ピンクとグリーンの二個セット。
ドット柄にチョコレートケーキが描かれている。
「これ、熱いのも冷たいのもOKだから一年中使えるね。」
唯は嬉しそうに笑った。
「うん、じゃ今日からさっそく使おう!」
和磨もすっかり機嫌が直ったようだ。
「かず君・・・ありがと。」
唯は和磨の瞳を見つめ、微笑んだ。
「・・・うん。」
夕陽に照らされ、和磨の顔は赤く染まっていた。
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