言葉のかわりに−第二章・12−

 

 

次の日、文化祭二日目。

いよいよJuliusとOracleの初競演の日。

出演バンドは全部で7バンドでトリはもちろんJuliusだ。

Oracleは他のバンドとのくじ引きで5番目になった。

午前中にさらりと流すだけのリハーサルが終わり、

午後2時の開演時間とともに1番目のバンドの演奏がはじまった。

 

野外ステージのちょうど裏側に位置する視聴覚室が

出演バンドの楽屋になっていて、

隣の準備室が女子の更衣室になっている。

 

3番目のバンドの演奏がはじまったところで、

Oracleのメンバーは衣装に着替える為、隣の準備室に入った。

「香奈ちゃん、鎖骨のとこにキスマークついてるーっ!」

着替えを始めてすぐに奈津子の声が隣の視聴覚室まで聞こえてきた。

「あーっ!ホントだっ。」

「うひゃっ!彼氏につけられたの?」

拓未が和磨の横で缶コーヒーを吹いた。

その様子を和磨達はクククッと笑いを堪えながら見ていた。

「あ、あー・・・、いや、これはー・・・。」

香奈はしどろもどろで必死に言い訳を考えている。

珍しくうろたえている香奈を見て唯もクスクスと笑っていた。

「む、虫刺され!」

香奈は苦し紛れに言ってみたが、「そんな訳ないじゃーん。」と

あっさりみんなに言われてしまった。

視聴覚室の方では堪えきれず、和磨達が爆笑していた。

「うー・・・。」

香奈はもはや言い訳なしと言った感じだった。

すると今度は唯が標的にされた。

「あっ!てか、唯ちゃん胸でかっ!」

「ホントだ。着痩せするタイプなんだねー。」

「あー、唯は結構胸大きいよー。」

「キャーッ!真由ちゃん、どこ触ってんのー!?やめてーっ!」

唯の悲鳴が響く中、今度は和磨が缶コーヒーを吹いた。

「なんか楽しそうだな。」

そう言って拓未はニヤニヤしている。

「あー、俺もあの中加わりてぇー。」

「ははは、和磨に殺されるぞ?」

准と智也もそんな事を言いながら笑っている。

「・・・。」

和磨はただ黙ってみんなと目を合わせないようにしているしかなかった。

 

しばらくして、Oracleのメンバーが準備室から出てきた。

いかにもガールズバンドらしい赤を基調にした衣装で合わせている。

拓未が赤いスクエアネックのトップスを着た香奈の方に視線をやると

キスマークが丸見え状態だった。

そして香奈が無言で拓未を睨んだのは言うまでもない。

唯は白いカットソーに赤いタータンチェックのミニスカート、

黒いブーツを履いている。

和磨は思わず唯の胸元に視線が行った。

すると、あのペアネックレスをつけているのが見えた。

思わず笑みがこぼれそうになるのを抑えていると

唯と目が合いそうになり、慌てて視線を外した。

その様子を横にいる拓未達がにやにやしながら見ていた。

「なんだよっ。」

和磨は拓未達を軽く睨みつけた。

「「「いや、別にー。」」」

素知らぬ顔をして白々しく拓未達がそっぽを向くと

和磨もは黙ったまま頬杖をついて視線を外した。

 

「うーん・・・どうしよう・・・。」

一通りメイクを終えた香奈が鏡の前で何かを悩んでいた。

「どうしたの?」

隣にいる唯が不思議そうな顔で香奈に声を掛けた。

「んー・・・これ・・・。」

香奈が指差したのは“彼氏”につけられたキスマークだった。

「あー、それなら・・・」

そう言って唯はコンシーラーとファンデーションを使い、

バッチリ見えていた香奈のキスマークを上手に隠した。

「唯ちゃん、うまいねー。もしかして・・・キスマーク隠すの慣れてる?」

いきなり真由子が鋭い質問をぶつけてきた。

「な、何言ってんのっ!」

思いも寄らぬ質問が飛んできたのか、唯は少し慌てた。

和磨がまたコーヒーを吹き出しそうになっている。

「ドレス着る機会が多いから、知らない間に出来た虫刺されとか

 痣とか隠すのに慣れただけだよー。」

「あー、そっか。クラシックやってると露出の高いドレスとか着るもんね。

 それでキスマークの一つや二つつけられても隠せるワケねー。」

「い、いや・・・だから、あの・・・キスマークを隠すのに慣れてるワケじゃ・・・」

そんな会話をしていると、4番目のバンドの演奏がはじまった。

 

Oracleのメンバーはそれぞれチューニングや指慣らしを始め、

緊張してきたのか段々と口数が減っていった。

「唯はさすがに余裕だね・・・。」

香奈は唯の落ち着いている様子を見ながら呟いた。

「そんな事ないよ?」

唯は楽譜を見ながら香奈に視線を移す事無く答えた。

「とか言って、全然緊張してなさそうな顔してるけど・・・?」

「これでも一応緊張してるよ?今日はみんなと一緒にステージに立てるから

 いつもより緊張してないけど。」

とは言え、楽譜を見て再確認するあたりはいつもと一緒だ。

「まぁ・・・確かに言われてみれば唯はいつも一人でステージに立つもんね。」

「一人は一人で失敗しても自分が恥を掻くだけだから・・・、

 それを考えると今日の方がよっぽど気が抜けないけどね。」

確かに。

「なんかそれ、余計にプレッシャーかけられた気分・・・。」

香奈は眉間にしわを寄せ、項垂れた。

その様子に唯は顔をあげ、楽譜から香奈に視線を移した。

「香奈、深く考えすぎなんじゃない?お祭りなんだから、もっと楽しもうよ。」

唯はにっこり笑った。

「うん・・・、そだね!」

香奈は唯のその言葉のおかげで緊張が少し解れた。

 



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