言葉のかわりに−第二章・13−
4番目のバンドの演奏が終わり、機材の入れ替えが始まった。
すると、女の子ばかりだから重い機材は大変だろうと
Juliusのメンバーが手伝いに来てくれた。
「ありがとう・・・。」
キーボードを運んでくれた和磨に唯が少し恥ずかしそうに言うと、
和磨は優しい笑みを浮かべて「頑張れよ。」と言った。
ステージの袖でOracleのメンバーは円陣を組み、
「今日は思いっきり楽しもうね!」
と真由子の言葉とともに気合いを入れた。
それと同時に唯の顔つきも演奏会で見た時と同じように変わっていた。
(さっきまでとは全然別人みたいだな・・・。)
そんな事を思いながら、和磨はステージへ踏み出して行った唯の後姿を見つめていた。
瑤子のギターの音ともに真っ暗だったステージが一気に色鮮やかな照明に映し出され、
Oracleの演奏が始まった。
一曲目は『Over Drive』
JUDY AND MARYの代表曲で明るい曲だ。
香奈の喉の調子もいい。
初めは緊張していたものの、段々笑顔になってきた。
他のメンバーもそんな香奈を見てほっとしたのか、
笑顔で演奏をしている。
「楽しそうにやってていいねぇー。」
「上木さんも喉の調子良さそうだし、ちゃんと腹式呼吸できてるな。」
「てか、唯ちゃんはさすがだな。」
「うん、みんなより一際落ち着いてるし。」
「お、唯ちゃんコーラスも入ってる。」
「おぉっ!?」
「ちゃんと腹式呼吸してる。」
「和磨が教えたのか?」
「いや、俺なんも教えてないけど?」
「へぇー、そーなんだ?」
そんな会話をしつつ、Juliusのメンバーは
ステージの袖でOracleのメンバーを見守っていた。
二曲目は『Cheese“PIZZA”』
シャッフル調のかわいい曲で、ちょっと難しい曲ではあるが、
香奈が歌いやすいように少しアレンジを変えている。
客席の反応もいい、今日の出演バンドの中でも一番の盛り上がりだ。
二曲目が終わり、ここでMC。
香奈らしく明るいトークで観客を笑わせている。
「香奈ちゃんMCうまいなー。」
「なんか初ライブとは思えん。」
「このバンドなかなかいいね。」
唯と香奈以外みんなバンド経験者とは言え、
結成して一ヶ月のバンドとは思えないくらいだ。
三曲目は『小さな頃から』
香奈の歌と唯のコーラスが聞かせどころのバラードだ。
「てか、唯ちゃん綺麗な声してるな。」
「うん、ファルセットも綺麗にでてるし。」
「香奈ちゃんの声と合ってる。」
確かに唯は綺麗な声をしていた。
絶対音感があるだけに、音程は外さないし、
音楽に関する一通りの教育を受けているのか、
腹式呼吸もファルセットもできていた。
四曲目は『ドキドキ』
ギターではじまるミディアムテンポの曲。
最後の方で香奈が歌詞を忘れてしまい、
咄嗟に唯がアドリブでコーラスに入り、フォローした。
「あ、今の・・・香奈ミスったな。」
「え、そうなのか?」
「うん、いつも練習のあとMD聞かせてもらってたからわかる。」
「へー、全然わかんなかった。」
「今の唯ちゃんがアドリブでコーラス入ったおかげで崩れなかったみたいだな。」
「ナイスカバー。」
さすが・・・。
長年の付き合いだから成せるものなのか・・・。
最後の曲は『Hello! Orange Sunshine』
言わずと知れたJUDY AND MARYの代表曲だ。
パワー全開の演奏で一段と観客を沸かせ、
そしてOracleの最初で最後のライプが終わった。
ステージの袖に下がり、Oracleのメンバーは
「おつかれーっ!」と言ってみんなで抱き合った。
和磨も唯に「お疲れ。」と言って微笑むと
にっこり笑って見つめ返してきた唯の顔つきは
ステージに立っていた時とは違い、
いつもの表情に戻っていた。
機材を軽く片付けて、OracleとJuliusのメンバーは一緒に視聴覚室に戻った。
6番目のバンドの演奏が始まり、Oracleのメンバーが隣の準備室で制服に着替えている間、
Juliusのメンバーも視聴覚室で衣装に着替えていた。
今回は青を基調とした衣装らしい。
制服に着替え終わったOracleのメンバーが準備室から出てきた。
唯がふと和磨を見ると前髪を右手でかきあげ、
少しラフな感じにセットしているところだった。
唯はその仕草にドキッとした。
さらに少し開いたシャツの間からはペアネックレスが見えた。
和磨も自分と同じものをいつもつけてくれている・・・。
唯は視線を逸らしつつ、笑みがこぼれそうになるのを抑えた。
6番目のバンドの演奏が終わる頃、再びOracleとJuliusのメンバーは
一緒にステージの袖に向かった。
そしてさっきのお返しにとOracleのメンバーも
Juliusの機材のセッティングを手伝った。
ステージに出る直前、唯は周りを気にしながら
「あ、あの・・・頑張ってね。」と和磨に言った。
和磨は「うん。」と言った後、真剣な顔になり、
「5曲目にやる曲聴いてて・・・唯の為に歌うから。」
と耳元に囁いた。
「え・・・?」
一瞬、何を言われたのかわからなかったが、すぐに意味がわかった。
段々と顔が熱くなっていく。
和磨は唯に優しく微笑みかけて、拓未達と円陣を組んだ。
そしてステージの袖から出る瞬間、和磨はKazumaになっていた・・・。
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