言葉のかわりに−第二章・15−

 

 

打ち上げが終わり、ファミレスの前で解散した後、唯と和磨は二人で帰っていた。

まだ少し人通りが多い場所を手を繋いでゆっくり歩く。

「やっぱりJuliusの人気はすごいね。」

「そうか?」

「うん、客席に全然空きがなかったくらい人が集まってたし。」

「けど、Oracleの時も結構人が集まってたぞ?」

「あはは、あれは香奈達が仕込んでたんだよー。」

唯はクスクスと笑い始めた。

「サクラってこと?」

「うん、友達とか近所の人に片っ端から声を掛けて見に来てもらったみたい。」

「そりゃ、すごい仕込みっぷりだな。」

和磨もプッと吹き出して苦笑した。

「そういえば、腹式呼吸とファルセット、誰かに教えてもらったのか?」

「うん、お母さんが声楽やってるから教えてもらったの。」

「へぇー、それでか・・・。」

「ん?」

「ちゃんと腹式呼吸もファルセットもできてたから。」

和磨がそう言うと唯は照れたように微笑んだ。

声楽をやっている・・・と言うことは、

唯と、唯の兄・雅紀が幼い頃から音楽を始めたのも、母親の影響なのだろう。

 

人通りが少なくなってきた所で和磨は唯の腕をさっと自分の腕に通させた。

相変わらずの早業だ。

唯は少し顔を赤くした。

「・・・かず君。」

「うん?」

「5曲目・・・すごく感動しちゃった・・・。」

唯はあの曲を歌っているKazumaを思い出していた。

「・・・よかった・・・ちゃんと聴いててくれたんだ?」

和磨は嬉しそうに唯を見つめた。

「うん、あの曲・・・Juliusの曲の中で一番好きな曲なんだ。」

「・・・え。」

「だから、すごく嬉しかった。」

唯は和磨の顔を見上げると少しだけ微笑んだ。

「あの曲・・・なんていう曲?」

初めて聴いた時から、今までずっと・・・なんとなく聞きそびれていた。

「『言葉のかわりに』って曲。」

和磨が少し照れながら答えた。

「照れ屋で口下手な男が、女に愛を語る詩なんだけどさ・・・」

「・・・うん。」

「口下手だから言葉でうまく言えなくて・・・」

「・・・うん。」

「だから・・・結局、言葉のかわりにキスをする・・・て詩。」

「・・・うん。」

唯は歌詞の内容も憶えていた。

「今回が初めてなんだ・・・。」

「?」

唯はなにが?といった顔をした。

「彼女の為だけに歌ったの・・・。」

「え・・・。」

「今まで誰かの為に歌うことなんてなかったから。」

唯はその言葉を聞いて目頭が熱くなっていった。

「・・・唯っ!?」

唯が突然涙を流し始め、和磨は慌てた。

「・・・唯?・・・どうした?」

和磨がハンカチで唯の涙を拭っていく。

それがまた嬉しくて涙が溢れる・・・。

 

「かず君・・・ありがと。」

ようやく涙が止まり、唯は和磨の顔を見上げた。

「“初めて誰かの為に歌った”のが私だって聞いて嬉しくて・・・。」

「そっか・・・。」

和磨は優しく微笑みながら唯を抱きしめた。

「これからもずっと・・・」

「・・・?」

「これからもずっと・・・あの歌は唯の為だけに歌うから・・・。」

「かず君・・・。」

「例え、何十人、何百人の客の前でも・・・唯の為だけ。」

和磨のその言葉に・・・自分を抱きしめてくれているその腕の温もりに・・・

唯はまた涙が溢れ出した・・・。

 



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