言葉のかわりに−第二章・17−

 

 

和磨は家に帰ってからもずっと唯と直樹の事が気になっていた。

なぜ戸田といたのか・・・?

なぜ唯は家とは逆方向のあの場所にいたのか・・・?

いつも行くファーストフードだと俺に会う可能性があると思ったから・・・?

 

考えていても仕方がない。

本人に直接聞けばいいんだし・・・。

和磨は携帯を開いて唯に電話をかけた。

「あれ・・・?」

だけどコール音の後、すぐに機械的な音声が流れてきた。

どうやら電源を切っているようだ。

(おかしいな・・・。)

1時間後、もう一度掛けてみたがやっぱり繋がらなかった。

また電源切ったまま忘れているのだろうか?

(明日、直接聞くか・・・。)

和磨はため息をつき、携帯を閉じてベッドの上に放り投げた。

 

翌日、土曜日のこの日はJuliusの練習もミーティングもなく、

和磨は唯とゆっくり会えると思っていた。

ところが・・・。

和磨が電話をすると文化祭でレッスンを休んだ為、

その振替レッスンが入っているとあっさり言われてしまった。

しかも土曜日だから、コンクールの曲を一日中特訓するらしい。

『ごめんね、かず君・・・。』

電話の向こうで唯が申し訳なさそうに言った。

「あ・・・いや、レッスンなら仕方ないって・・・気にするなよ。」

『うん・・・。』

「・・・ところで・・・」

『あぁっ!もうこんな時間!?レッスン遅れちゃう!

 ・・・それじゃ、かず君またね!』

和磨が昨日の事を聞こうと切り出した時、運悪く出かける時間になったらしい。

時間切れ・・・そして電話も切れた。

結局、和磨は唯に何も聞けなかったのだ・・・。

 

さらにその翌日の日曜日。

Juliusのスタジオ練習とミーティングが入っていた和磨は、

メンバーと別れた後、唯に電話をしてみた。

しかし、今日は何回コールしても出ない。

(またピアノ弾いてるのかな?)

家に帰ってからも和磨は電話をしてみた・・・が、

結局、この日唯が電話に出ることはなかった。

「おいー、マジかよ・・・。」

和磨はバタリとベッドに倒れこんだ。

 

月曜日。

朝、珍しく遅刻ギリギリで和磨が教室に飛び込んできた。

「珍しいな、おまえがギリギリに来るなんて。」

拓未が全力疾走してきた和磨を見て笑いながら言った。

「ハァ、ハァ・・・目覚まし・・・セットし忘れた・・・。」

まだ息があがったままの和磨は苦しそうだ。

昨夜、唯と連絡が取れず、そのまま不貞寝してしまったのだ。

「真相はわかったか?」

拓未は金曜日のあの事を言っているのだろう。

「・・・。」

「恋愛初心者クン、こーゆー事は早めに解決が一番デスヨ。」

「・・・恋愛初心者・・・言うな。」

和磨は軽く拓未を睨むと、まだ整っていない息でボソっと呟いた。

 

昼休憩、和磨は唯の教室へ向かった。

しかし、唯の姿はなく、見渡せば香奈もいない・・・。

(あれ・・・?どこに行ったんだ?)

和磨は眉間にしわを寄せた。

「篠原くん。」

名前を呼ばれて振り返ると香奈が立っていた。

「唯に会いに来たの?」

「あ、うん。」

「唯なら音楽室に行ったよ。」

「音楽室?」

「うん、今日からコンクールに向けて音楽室のピアノを借りて

 昼休憩に練習するんだってー。」

「ふーん。」

(それなら邪魔しちゃ悪いな。)

「行ってみれば?」

「いや・・・邪魔したくないからいい。」

「けど、篠原くんがわざわざ来るぐらいだから急ぎの用だったんじゃないの?」

「ん、まぁ・・・。」

「それに、多分夜も電話しても出ないと思うよ?」

「え?なんで?」

「唯の頭の中はすでにコンクールの事でいっぱいだから、

 夜もずっとピアノ弾いてると思う。」

「・・・。」

(確かに・・・昨日も結局、電話に出なかったしな。)

「・・・行ってみる。」

和磨は音楽室へと足早に歩き始めた。

 

音楽室の前で立ち止まりドアをそろそろと開け、和磨は中を見渡した。

・・・しかし、誰もいない。

ピアノの音もしていなかった。

「唯?」

人の気配すらしない音楽室の中に入り、和磨はピアノに近づいた。

だけど、やはり唯の姿はない・・・。

(おかしいな・・・。)

すると外から話し声が聞こえてきた。

「やっぱり、心配だから俺も一緒にいるよ。」

「い、いいのに・・・。」

(唯の声・・・?)

「まぁ、邪魔はしないから。」

(一緒にいるのは・・・男?誰だ?)

音楽室のドアが開いて唯ともう一人の人物が入ってきた。

和磨は開いたドアに視線を向け、入ってきた人物を確認した。

唯と・・・

もう一人は、戸田直樹だった。

(・・・なんで、またアイツと一緒なんだ?)

「かず君!?」

唯はピアノの前に立っている和磨を見つけ、驚いた顔をした。

「・・・ど、どうしたの?」

唯は少し慌てている。

(ここに俺がいる事が予想外だったのか・・・?

 それとも・・・戸田と一緒にいる所を見られたからか?)

「・・・。」

和磨は何も言わず二人の前を通り過ぎ、音楽室を出ていった。

 

唯は追いかけてくる様子もなかった。

 



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