言葉のかわりに−第二章・19−
その日の放課後、和磨の所に戸田直樹が来た。
「篠原、ちょっと・・・」
和磨は思わぬ人物からの呼び出しに、怪訝な顔をした。
人気のない場所まで来たところで、戸田は徐に口を開いた。
「神崎さんのことなんだけど・・・。」
(う・・・この展開・・・、前にもどこかで・・・。)
「唯がどうかした?」
和磨はなるべく平静を装った。
“あの時”と同じ様に。
「ごめん、俺のせいで・・・。」
へ・・・?
俺のせい・・・?
どういう事だ?
「なんか・・・篠原、誤解してるみたいだから。」
誤解・・・?
「えーと・・・話が見えないんだけど?」
「あー、ごめん。最初から話すよ。」
「あぁ。」
是非そうしてくれ。
ワケガワカラン。
「先週の金曜日、俺と神崎さんがファーストフードにいたとこに
篠原達もいただろ?」
「・・・あぁ。」
気づいてたのか・・・。
「あれ・・・別にデートしてた訳じゃないから。」
「え・・・?」
そうなのか?
「実は、神崎さんと上木さんが文化祭にライブやっただろ?」
「あぁ、Oracleね。」
「そう、そのバンドでベースやってた子に・・・なんていうか
・・・その・・・」
(・・・?)
(何が言いたいんだ?)
「まぁ・・・所謂一目惚れしちゃって・・・」
俺が怪訝に思っていると、戸田は少し顔を赤くしながらそう言った。
・・・え?
一目惚れ?
芹沢さんに?
「それでその・・・神崎さんと、上木さんにお願いして
会わせてもらったんだ。」
「・・・。」
意外な話の展開に俺は唖然とした。
「・・・で、篠原が見たのは、上木さんに芹沢さんを
連れて来てもらう前だったんだ。」
「あ・・・そう、なんだ・・・。」
俺はなんだか段々力が抜けてきた。
いやいや、待て待て。
まだ謎はいっぱい残ってるぞ。
「けど、なんでまたあんなとこで?」
「あー、あれは・・・学校の近くだと野球部の連中に
見られるとマズイと思ったからなんだ。
それにあそこだと芹沢さんの帰り道だって聞いたから。」
「なるほど・・・。」
「それと後、月曜日の事なんだけど・・・。」
あー、そうだ。
それだ、それ!
「月曜日の昼休憩にさ、俺、部室に用があって部室棟の横を通ったんだよ。」
「うん。」
「そしたら、部室棟の裏から“Kazumaくんに近づくな”とかなんとか
文句言ってるのが聞こえたんだ。」
「・・・っ!」
それって・・・。
「・・・で、なんかえげつない事してるなぁ・・・と思いながら、
ちらっと裏側を覗いたら、神崎さんが文句言われてたみたいでさ。
それで、俺が声をかけたら、その文句言ってた数人の女の子達は
逃げていったんだけどね。」
「それって・・・相手のリーダー格の女は高橋早苗?」
「うん。」
「・・・そう、か。」
(今日が初めて呼び出された訳じゃなかったのか・・・。)
「んで、その後神崎さん、音楽室に行くって言うから、
それなら護衛で一緒に行くって俺が言ったんだ。
また文句言いに来るかもしれないと思ってね。」
あ・・・。
“やっぱり、心配だから俺も一緒にいるよ。”
“い、いいのに・・・。”
“まぁ、邪魔はしないから。”
(それで、あの会話が聞こえてきたのか・・・。)
「ホントは、篠原が音楽室を出て行ったときに、言えばよかったんだけど・・・
神崎さんがどうしても言わないでくれって言うから。」
「・・・。」
(だから、追いかけてこなかったのか。)
「けど、なんか最近篠原と神崎さん、ギクシャクしてるっぽいから、
ひょっとして、ケンカでもしたんじゃないかと思って・・・。」
「ケンカはしてないけど・・・。」
してないけど・・・。
「でも、俺と二人でいる所を二回も見てるし、なんらかの誤解が
生じてもおかしくない場面だったしね。」
「まぁ・・・な。」
確かに。
現に俺は誤解してたし。
「と・・・いうワケだから、ごめん俺のせいで。」
「あ、いや・・・。」
「んじゃ、そーゆーワケだから神崎さんと仲直りしてねー。」
そういい残し、戸田は去っていった。
俺は真相がわかってホッとしたやら、力が抜けたやら、疲れたやら・・・。
・・・と言うか、思ったよりも唯が強かだという事に気がついた。
エリの時といい、文化祭の時といい、月曜日の件といい・・・
俺は結局、全部他人から聞いている。
唯は一言も俺に何も言わなかった・・・。
今日の事だってエリが知らせてくれなかったら、きっと俺はまた何も知らずにいた・・・。
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