言葉のかわりに−第二章・21−
12月に入り、いよいよ唯が出場するコンクールが始まった。
一次予選、二次予選、三次予選、セミファイナル、ファイナルと
月曜日から日曜日にかけて行われる。
三次予選までは平日に行われるので、セミファイナルまで
唯が残れば、和磨は会う事ができない。
月曜日、二日間ある一次予選の一日目に
さっそく唯が出場する事になっていた。
放課後、和磨がそそくさと帰ろうとしていると
香奈と拓未に捕まってしまった。
唯からの一次予選の結果報告を一緒に待とうと言われたのだ。
「唯、そろそろ終わったかな?一次予選通ったかな?」
香奈は落ち着かない様子で和磨と拓未の目の前をウロウロと歩き回っていた。
「香奈、少しは落ち着けって。」
拓未もそう言ってはみたものの、どこかそわそわしている。
和磨は至って平静・・・を保っている様に見えた。
・・・が、実は一番落ち着いてないのは和磨だった。
内心、早く唯から連絡がないかと気が気でなかった。
だからバイトだと言って早く帰りたかった・・・
落ち着きのない様子を香奈と拓未に見られたくなかったから・・・。
それからしばらくして和磨の携帯が鳴った。
唯からメールが届いた事を知らせる着信音。
和磨は急いで携帯を開いた。
−−−
無事、一次予選通過したよ!
これからさっそく二次予選の曲のレッスンです。
−−−
「唯、一次予選通ったって!」
和磨は嬉しそうに携帯の画面を拓未と香奈に見せた。
「おぉっ!やったじゃん!」
「さすが唯!」
拓未と香奈がハイタッチしている横で
和磨はさっそく唯にメールを返した。
−−−
一次予選通過おめでとう!
二次予選も頑張れ!
−−−
次の日、一次予選二日目。
唯は明日の二次予選の一日目に出場が決まり、
学校を休んで一日中レッスンをしていた。
和磨は唯の顔が見られないことを少し残念に思いながら
いつもよりもたくさんの女子生徒達に囲まれていた。
学校が終わり、和磨がバイト先のコンビニに着くと
店の前に女の子が立っているのがちらりと見えた。
「かず君。」
(え・・・?)
自分のことを“かず君”と呼ぶのは一人しかいない・・・。
和磨は聞き慣れたその声に振り返った。
「唯!?」
「えへへ、待ち伏せ。」
唯は少し悪戯っぽく笑いながら和磨の顔を見上げた。
「レッスンは?」
「どうしても、かず君に直接会って渡したいものがあったから、
ちょっと抜け出してきちゃった。」
「え・・・?」
和磨は驚いた顔で唯を見つめた。
「お誕生日おめでとう。」
唯は和磨に小さな紙袋に入ったプレゼントを渡した。
12月11日・・・今日は17回目の和磨の誕生日だった。
「知ってたのか・・・?」
和磨は唯に自分の誕生日を言った覚えがなかった。
唯も和磨の誕生日がいつなのかとも聞いてくる事もなかったから
知らないと思っていたのだ。
「もちろん、知ってたよ。」
唯はクスクスと笑いながら答えた。
ちなみに拓未から誕生日をこっそり聞きだしていたのは言うまでもない。
「これ・・・俺に渡す為にわざわざ?」
「うん。」
唯はにっこり笑った。
「ホントは渡した後、もっとゆっくり話とかしたかったんだけど・・・
すぐレッスンに戻らなきゃいけないの・・・ごめんね。」
(俺の為にレッスンまで抜け出して来てくれたのか・・・。)
「ありがとう・・・。」
和磨は優しく微笑んだ。
「うん・・・。それじゃ・・・レッスンに戻るね。」
唯は和磨に手を振った後、後ろ髪を引かれる思いでレッスンに戻っていった。
和磨も手を振り返しながら唯が見えなくなるまで見送った。
バイトが終わり、家に帰った和磨は唯からもらったプレゼントを開けてみた。
小さな箱の中にはピアスが入っていた。
鮮やかな赤い色の天然石があしらわれた小さ目のピアス。
和磨は、左耳にピアスをしている。
高校に入ってからすぐ、拓未と一緒に一箇所だけあけた。
何の石だろう・・・?
ピアスが入っていた小箱に手入れ方法と
天然石の名前などが書かれたカードが入っていた。
“アレキサンドライト”
(聞いたことないな・・・。)
初めて聞く天然石の名前。
(ていうか・・・唯、いつの間にこんなの用意したんだ?)
ずっとコンクールの事で頭がいっぱいなんだと思っていた。
それ以前に自分の誕生日を知っていると思ってもみなかった。
知っていたとしてもコンクール中だし、メールか電話で少し話せれば
いいと思っていた。
まさか自分の為にプレゼントまで用意して会いに来てくれるとは
夢にも思っていなかったし・・・。
明日は唯の二次予選・・・。
「・・・唯、頑張れよ。」
和磨は窓の外に浮かぶ新月を見上げながら呟いた。
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