言葉のかわりに−第二章・25−

 

 

香奈の声に振り向き、歩み寄ってきた唯に俺は釘付けになった。

初めて間近で見るドレス姿。

かわいい・・・と言うより、綺麗・・・。

キャミソールドレスで露出が高いと言うこともあるが、

足元まで隠すロングドレスはいつもよりも唯を大人っぽく見せている。

唯は俺に気がつくと、手を振りながら嬉しそうな顔をした。

「お疲れ様。」

そう言って笑顔を向けると、唯も俺に笑みを返してくれた。

その笑顔はさっきまでステージにいた人物とは思えないくらいだ。

「かず君・・・ピアス・・・。」

唯は俺のピアスが一つ増えている事に少し驚いた様子だった。

「ん、ここはこのピアスの指定席にした。」

俺は唯からもらったピアスを指した。

すると唯は少しだけ顔を赤くして嬉しそうに笑った。

 

「唯、またなんか・・・言われた?」

香奈は心配でたまらなかった様子で唯の顔を覗き込んだ。

「あー、なんかいろいろ言われた気がするけど、

 憶えてないかもー。」

そんな香奈をよそに唯はあっけらかんとして言った。

「・・・大丈夫だった?」

香奈はさらに心配そうに聞いた。

「うん。」

唯は香奈に大丈夫という風にニッコリと笑って見せた。

「だから言ったろ?」

雅紀がニッと笑いながら香奈の頭をポンポンと軽く撫でると、

香奈は「うん。」と、安心したように言い、やっと笑顔を見せた。

「まぁ・・・去年、散々おにいちゃんに怒られたしー。」

唯はそう言うと少し口を尖らせた。

「ははは、けどまぁ、いつかは越えなきゃいけない壁だったしな?」

雅紀は唯の頬を指でツンツンとつついた。

(やっぱり去年・・・何かあったのか?)

「ところで唯、まだ着替えなくていいんでしょ?」

香奈は唯にそう聞いた後、拓未をちらりと見た。

「うん、一応結果発表までこの格好。」

「お、じゃレアなドレス姿を撮っておこう。」

拓未はにやりとしながらデジカメを取り出した。

「望月くん、デジカメいつも持ち歩いてるの?」

唯は少し驚いたように拓未のデジカメに視線をやった。

「うん、そだよ。」

拓未はニッと笑った。

「んじゃ、まずは唯ちゃんと和磨のツーショット。」

「「えっ!?」」

「ほらほらっ、早くっ。」

拓未は俺達二人をくっつけると

「香奈。」

と、なにやら合図を出した。

香奈はにやりと笑うと、唯に近づき脇腹をくすぐった。

すると唯は「きゃーんっ。」と、声をあげて笑い始めた。

その様子が可笑しくて俺もつい釣られて笑った。

「はいはい、こっち向いてー。」

・・・パシャッ。

「ん、いい感じ。」

拓未はデジカメのモニターを見ながら満足そうに笑った。

それから、雅紀と撮ったり、香奈と撮ったり、全員で撮ったり・・・。

ちょっとした撮影会になった。

 

しばらくして全ファイナリストの演奏が終わり、

審査に入るアナウンスがあった。

「あ、それじゃそろそろ控室にもどるね。」

唯はそう言うと手を振りながら控室へと戻っていった。

 

「去年・・・なんかあったの?」

拓未も気になっていたらしく、唯が楽屋に入っていくと

香奈と雅紀に聞いた。

「んー、去年・・・というか、去年まで・・・かな。」

雅紀は少しだけ苦笑しながら話し始めた。

「唯がさ、コンクールで入賞し始めた頃から、段々と

 一緒に出てた奏者からいろいろ言われ始めたんだよ。」

「いろいろ?」

「まぁ、例えば・・・他のコンクールで入賞したからって

 いい気になるな・・・とか。」

「うゎ・・・。」

「入賞したのは裏金使ったんじゃないのか?・・・とか。」

「ひでぇ・・・。」

「まぁ・・・他にもいろいろ。」

雅紀はそこまで言うと、ハァーッとため息をついて、

「それでさ、言われた事を一々気にして結局、去年までいい成績を

 残せなかったんだ・・・。」

「・・・。」

「このコンクールも去年はセミファイナルまで残れなかった。」

「え・・・。」

「もしかして・・・唯ちゃんの前に出てた女の子がその・・・

 いろいろ言ってた子?」

「うん。」

(それで上木さんが血相を変えたのか・・・。)

「けど雅兄、唯に何言ったの?散々怒られたって言ってたけど?」

「まぁ、たいした事は言ってないけどな。

 ・・・早い話が考え方を変えろって言ったんだよ。」

「考え方?」

「そう、言われた事を一々気にしたってキリがないんだし、

 相手は唯の事が邪魔だから言ってくる訳だろ?」

「うん。」

「という事は、逆に言えばたいした事ない奴には言わないんだし、

 それだけ実力があるって事だ。」

「あー、なるほどー。」

「それに・・・弱い犬ほどよく吠える・・・。」

雅紀はニッと笑った。

「あはは。」

香奈も納得したように笑い出した。

「現にあの子は本番に弱いのか、トチったろ?」

「うん。」

「まぁ、あんだけトチれば“負け犬”確定。」

「じゃ、今回唯ちゃんは見事壁を乗り越えたワケだ?」

「そそ。」

雅紀は拓未の言葉に頷くと、

「・・・まぁ、元々唯は精神的には弱い子じゃないから。」

と続けた。

確かにそうかもしれない・・・いや、そうだ。

 

唯は精神的にはきっと俺より強い・・・。

 



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