言葉のかわりに−第二章・26−

 

 

審査が終了したアナウンスがロビーに響き、

和磨達が客席に戻ると、ステージの上には

ファイナリスト達が顔を揃えていた。

その中でも唯は一番小さくて、一番きれいで、一番目を引く存在。

 

審査の結果発表はすぐに始まった。

「第10位、59番・・・」

「第9位、5番・・・」

「第8位、22番・・・」

  ・
  ・
  ・

「第4位、12番・・・」

なかなか唯の名前が呼ばれない。

それに唯の前に演奏した一橋美由紀も呼ばれていない。

 

そして・・・

 

「第3位、23番、神崎唯。」

 

呼ばれた・・・!

3位だ!

 

和磨達四人は顔を見合わせた。

ステージの上では唯も驚いている。

「第2位、33番・・・」

「第1位、68番・・・」

結局、一橋美由紀は本当に“負け犬”になった。

選外になったようだ。

 

次々と表彰が行われ、唯も盾と賞状を受け取った。

表彰が終わると和磨達はすぐに控室に向かった。

唯は控室の外にいたが、すでに数人の取材陣に囲まれていた。

「すごい・・・インタビューされてる。」

拓未はデジカメ片手に驚いている。

受賞後の唯の姿を一番に撮りたかったのだろう。

「三位入賞だからなぁ。」

雅紀も自分の事のように嬉しそうに言った。

「てか、唯、ちゃんとしゃべれてるのかな?」

香奈は苦笑しながら唯に視線を向けた。

案の定、唯は恥ずかしそうにしている。

(ステージの上だとあんなに堂々としてるのに・・・。)

そんな唯の姿を見て、和磨は苦笑いした。

 

―――1時間後。

インタビューと撮影が終わった唯はようやく取材から開放された。

 

メイクを落として、普段着に着替えた唯が控室から出てきた。

いつもの唯だ。

「唯、おめでとう!」

香奈は唯に駆け寄り抱きついた。

(あー、俺も抱きつきてぇー。)

和磨はそんな事を思いながら、唯に「おめでとう。」

と言ってにっこり笑った。

雅紀と拓未も唯におめでとうと言い、さっそくどこで祝杯をあげるか話しはじめた。

 

夕食の時間には少し早かったが、唯達五人はイタリアンの店で食事をする事にし、

雅紀の車が駐めてある駐車場へと向かった。

するとその途中にあの“負け犬”がいた。

唯を見つけるとキッと睨みつけ、今にも食って掛かりそうな勢いで近づいてきた。

「私、負けたとは思っていないから!」

唯の前に立ち、いきなり吐き捨てるように言うと、

「今回はたまたまよ!いい気にならないで!・・・」

と続け、それでもまだ何か言おうと口を開きかけた時、

「ちょっとあんた、いい加減に・・・っ」

香奈が言い返そうとし、唯がそれを手で制した。

そして唯は一橋の横を素通りし、そのままスタスタと駐車場へ歩き始めた。

 

「唯、なんで何も言い返さなかったの?」

車が走り始めてから、香奈が先ほどの事を唯に聞いた。

「・・・私は別に一橋さんに勝ったとは思ってないから。

 今までだって一橋さんに負けたとは思ってないよ。

 ・・・自分に負けてただけ。今回は自分に勝つことができたから

 結果がついてきた・・・それだけよ。」

唯はだから言い返さなかったのだと続けた。

「それに・・・、あんな風に自分に負けても

 文句しか言えないなんて・・・何ていうか・・・虚しくない?」

「まぁ・・・ね。」

香奈は確かに・・・と言った感じで頷いた。

「そう思うと・・・なんか可哀想に思えてきちゃって

 言い返すのもバカバカしくなってきたと言うか・・・。」

そう言って唯が苦笑すると、

「なるほど。」

と、香奈も苦笑した。

そして唯はふぅーっと息を吐き出し、「けど、これでやっと終わった〜っ!」と

両手をあげて伸びをした。

ちょうど車が信号待ちで止まり、雅紀は唯に優しく微笑み「よく頑張ったな。」

と、頭をグシャグシャと撫でまわした。

唯はキャハキャハと笑い「やめてよー、おにいちゃーん。」と頭を左右にブルブルと

振って嫌がってはいるものの、されるがままになっていた。

犬みたいだ。

唯は一年ぶりのコンクール出場だと言っていたが、

その間に他にもコンクールはあったはずだ。

それらにわざわざ出なかったのは、やはり去年の失敗が響いていたからか・・・。

今回は精神的にも辛かったのを雅紀は知っているから、

余計に唯を褒めてやりたいのだろう。

 

再び車が走り出し、和磨達が後部座席で学校の話をいろいろとしている時、

まったく話に入ってきていない唯を香奈は不審に思い、

「唯?」と声を掛けた。

しかし、返事がない。

香奈が身を乗り出し、助手席にいる唯を覗き込んだ。

「あ・・・唯、寝てる。」

香奈はクスっと笑うと「疲れてたのかな?」と言った。

雅紀も運転しながらチラリと唯を横目で見て

「コンクールが終わってホッとして気が抜けたんだろ。」

と笑いながら言った。

和磨と拓未も身を乗り出して唯の寝顔を拝んだ。

(うゎ、子供みてぇな寝顔してる。)

小さく寝息をたてて眠る唯の顔は、本当に子供みたいだった。

和磨がクスッと笑っている横で拓未は「寝顔いただき!」と言って

デジカメのシャッターを切っていた。

(・・・おぃ・・・後でその写真、よこせよ・・・。)

和磨は無言の訴え・・・といった顔で拓未を睨みつけた。

 



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