言葉のかわりに−第二章・27−
「唯、24日ってあいてる?」
いつものように学校帰りに寄ったファーストフードで
和磨がクリスマス・イブの予定を唯に聞いてきた。
「うん?この日はJuliusのライブの日だよね?」
12月24日はJuliusのX'masライブがある日だった。
唯は、まさかライブの事を和磨が忘れているのかと思い、
大丈夫なの?言わんばかりの顔をした。
「いや・・・さすがに自分のライブは忘れてないよ?」
和磨は苦笑いした。
「ライブが終わった後の話。」
「終わった後は、とりあえず特に予定ないよー?」
「んじゃ、ライブが終わってからになるけど、
俺ん家でクリスマスパーティやらない?」
「そしたら夜遅くなるから迷惑になっちゃうよー。」
「大丈夫、親は二人とも仕事で帰ってこないから。」
そういえば拓未が以前、和磨の両親は家にいない事が多いと
話していた・・・。
(うちのお父さんみたいにお仕事が忙しいのかな?)
「唯が遅くなっても平気なら・・・だけど。」
「うちはちゃんと連絡さえしておけば大丈夫。」
「そっか、じゃ決まり!」
和磨は嬉しそうに微笑んだ。
「うん!」
唯も嬉しそうに返事をすると
「・・・二人で。」
と、和磨は悪戯っぽくニッと笑った。
「ふぇ?」
唯はみんなでやるのだと思っていたらしく、
口をポカンと開けていた。
―――24日、JuliusのX'masライブの当日。
ライブハウスに着いた唯と香奈はファンの子達に圧倒された。
・・・というのは皆が皆、いつも以上に気合いが入った格好をしているからだ。
「うわぁ・・・すごっ。」
唯は前回ライブハウスに来たとき同様、香奈と後ろの方に立ち、
ただただボーゼンとファンの子を傍観していた。
「やっぱイブだから、みんな気合いはいってるねー。」
香奈も唖然としている。
イブだから・・・と言っても普段のライブでさえ、
打ち上げはメンバーだけでしているのに、
一体どこでじっくり見てもらうつもりなんだろうか?
出待ちしているときだろうか?
唯がそんな事を考えていると、
「そういう唯も今日は一段とかわいい格好してるじゃない?」
香奈がニコニコしながら言った。
「え・・・。」
唯は少し顔を赤くして俯いた。
「か、香奈だって・・・。」
「まぁね、だって今日はイブなんだし、それに・・・
拓未の家にお泊りだもん。」
香奈はしれっとした顔で周りに聞こえないように小声で言った。
確かにいつもより少し大きめのカバンを持っている。
「唯もこの後、篠原くんと一緒に過ごすんでしょ?」
「う、うん。」
泊りではないけれど・・・。
開演時間になり、Juliusのライブがはじまった。
皆、やはりテンションが高くなっているのか、いつも以上の盛り上がりだ。
唯と香奈もすっかりファンの顔になっている。
X'masライブと言う事でJuliusの衣装も赤で統一されていた。
Kazumaの左耳には、あのアレキサンドライトのピアスと
首にはペアネックレスが光っている。
唯はそれが目に入る度に顔が緩みそうになった。
そして今日の1曲目は夏休みに作った新曲のうちの一つだ。
初めからオープニング向けに作った曲らしく、テンポの速い明るい曲で、
TakumiのギターソロとTomoyaのドラムが聴かせどころだ。
7曲目の前にKazumaがエレキギターからアコースティックギターに持ち替えた。
「今日は特別、クリスマスバージョンのメドレー。」
Kazumaは短いMCの後、Mr.Childrenの『しるし』を弾き始めた。
唯と和磨が一番好きなバンドだ。
中でも『しるし』はよく聞いている。
原曲のアレンジを少し変えているが、それでも全然下手に聞こえないのは
Juliusの演奏が上手いのは元より、Kazumaの歌唱力の高さを物語っている。
(やっぱり、かず君はすごい・・・。)
別れの歌にも、愛の歌にも聞こえるこの歌をKazumaはどんな気持ちで
歌っているのだろうか・・・?
『しるし』の後に続けて、Kazumaは『言葉のかわりに』を弾き始めた。
(あ・・・。)
Kazumaは唯に視線を移しながら歌い始めた。
(ステージから私が見えるのかな?)
この間はステージの袖から見ていた、だからこんな風にまっすぐに
見つめられて聴くのはより一層ドキドキしてしまう。
加えて、この曲もクリスマスバージョンになっていた。
あの文化祭の時と同じ様に、Kazumaの歌声が心に響く。
唯は何度も、何度も涙が出そうになるのを必死で堪えた。
『言葉のかわりに』が終わり、メドレーの最後は『Happy Xmas (War Is Over)』
ジョン・レノン&オノ・ヨーコの名曲だ。
最高の“X'masバージョン特別メドレー”
唯と香奈だけでなく、ファンの子が全員が聴き入っていた。
アンコールも終わり、JuliusのX'masライブが終わった後、
唯と香奈はライブハウスから少し離れた喫茶店で
和磨と拓未が迎えに来るのを待っていた。
そして一時間くらい過ぎた頃、和磨と拓未が店の中に入ってきた。
「ごめん、待たせて。」
そう言いながら和磨と拓未は来た早々に唯と香奈を喫茶店から連れ出した。
香奈と拓未は、唯と和磨にじゃあねと言って二人で違う方向へ歩き始めた。
その後姿を少しだけ見送って、唯と和磨も歩き始めた。
もちろん、和磨の家に向かって。
「あ、あの・・・ファンの子は?」
唯が心配そうに和磨に聞いた。
和磨はそう聞かれるのがわかっていたのか、
「大丈夫だよ、もう皆帰ったから。」
と、優しく微笑みながら即答した。
「打ち上げは・・・?」
唯はいつもライブ後にやっているメンバーだけでやる打ち上げまで
心配していたらしい。
「それも大丈夫、准も智也も彼女のとこ行ったから。」
和磨は苦笑しながら答えた。
唯は和磨にそう言われ、やっと安心したように笑った。
和磨の家には前に一度来たことはあるが、中に入るのは初めてだ。
当然、和磨の部屋に入るのも初めて。
広さは8畳くらいの洋室でベッドと机とコンポ、
エレキギターとギターアンプ、クローゼットと
全身が映るほどの大きな鏡とガラステーブル、
ノートパソコン、テレビ、DVD。
余計なものは置かないといった感じのよくある男子高校生の部屋。
至ってシンプル。
彼らしいと言えば彼らしい。
唯と和磨は途中、コンビニで買ったノンアルコールのシャンパンで乾杯した。
「「メリー・クリスマス!」」
お互いグラスを傾け、二人だけの聖なる夜の始まりを迎えた。
「唯・・・。」
和磨は唯を真っ直ぐに見つめ、いつもとは違う深いキスをおとしてきた。
「か、ず君・・・?」
唯はそんな和磨に驚いている。
和磨はゆっくりと唯を押し倒した・・・。
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