言葉のかわりに−第二章・3−

 

 

唯と香奈、真由子の三人はファーストフードに入り、他のメンバーと合流した。

「ヴォーカルをやることになった上木香奈です。」

「えっと・・・キーボードやることになった神崎唯です。」

唯と香奈の自己紹介の後、真由子が他のメンバーを紹介してくれた。

「こちらギターの樋口瑤子ちゃん、こっちがドラムの森宮奈津子ちゃん。」

みんなで「よろしくね。」と言い、唯達は瑤子と奈津子の目の前に座った。

 

「あ・・・ちょっとミーティング始める前にメール打たせて。」

そう言って香奈が携帯を取り出した。

「あ、そだ、私も連絡しとかなきゃ!」

唯も慌てて携帯を出す。

「彼氏と約束でもしてた?」

瑤子がにやりとした。

「うん、一緒に帰ろうって言ってたから、

 ちょっと連絡入れとかないと・・・ごめんね。」

そう言って唯と香奈はポチポチとメールを打ち始めた。

 

唯がメールを送った後、和磨からJuliusも緊急ミーティングが入ったと返事がきた。

「あっちも緊急ミーティングみたいね。」

香奈にも同じ様なメールが拓未からきたらしい。

「うん、そーだね。」

そう言って唯が携帯をカバンにしまっていると、

香奈が「あれ?」と言いながら店の入り口の方へ視線を向けた。

ちょうどJuliusのメンバーが入ってくるところだった。

拓未は香奈に気づくとニッと笑って手を振った。

香奈も手を振り返しながら、横にいる唯をツンツンつつくと、

きゃあきゃあと悶えながら笑い始めた。

唯はつつかれたところがちょうど弱点だったらしい。

その様子を和磨達は笑いながら見ていた。

するとようやくJuliusのメンバーがいることに気づいた唯は、

顔を赤くしながら小さく手を振ると、すぐに目を逸らしてしまった。

 

それから唯達五人はミーティングを始め、

文化祭でやる曲と練習日程、バンド名などを決めた。

バンド名は“Oracle(オラクル)”に決定した。

意味は神のお告げ。

とは言え、実際そんなたいそうな意味でつけたワケではない。

文化祭でミラクル起こしたいね!・・・なんて事を言っていて

響きが似ているこの言葉が出てきたのだ。

曲はもちろんカバー。

香奈の声質を考えて、JUDY AND MARYをやる事になった。

 

だいたい一通りの事を決め終え、雑談をしていると香奈の携帯に

メールが届いた。

拓未からだ。

香奈が拓未の方へ視線をやるとJuliusのミーティングは

すんなり終わったらしく、気がつくと准と智也は帰っていた。

和磨と拓未はどうやら唯と香奈を待っているらしい。

香奈は拓未にメールを返し、

「ごめん、ちょっと用事ができたから唯と先に帰るね。」

そう言って唯の手を引き、店を出た。

 

店の外にはいつの間に出てきたのか、和磨と拓未が立っていた。

「おまえらミーティング長すぎ・・・。」

拓未が待ちくたびれた顔で言った。

「だってしょうがないじゃない、そっちと違ってこっちは

 1から決めなきゃいけないんだからー。」

そう言って香奈が頬をふくらませる。

「てか、なんのミーティング?」

拓未は香奈のふくれた頬を指でツンとつついてつぶした。

その様子が可笑しくて後ろを歩いていた唯と和磨が笑いだす。

「んー、あのね、唯とバンドやることになったの。」

香奈がそう言うと、

「「はぁ?」」

と、和磨と拓未は同時に声を発した。

「あ、といっても文化祭の為だけのね。」

「あー、てことは・・・アレだな。」

拓未は和磨をちらりと見た。

「アレか。」

和磨もピンときたらしく、拓未となにやら頷いている。

「「アレってなに?」」

今度は唯と香奈が同時に声を発した。

「文化祭の二日目にやる野外ライブじゃねぇの?」

「当たり!」

「それ、俺らも出るから。」

「「えっ!?」」

唯と香奈はまた同時に声を発して驚いた。

「俺らは“客寄せパンダ”らしい。」

「何それ?意味わかんない。」

香奈はケラケラと笑った。

「てことは・・・かず君と初競演?」

唯が和磨に嬉しそうに言った。

「そーゆー事になるな。」

和磨もなんだか嬉しそうだ。

「ところで、唯ちゃんはキーボードだとして・・・

 香奈は何やるんだよ?」

「ふふん、ヴォーカル。」

香奈はそう言って両手を腰に当て、胸を張ると、

「あ、そだ。篠原くん、腹式呼吸教えてー?」

と、後ろを歩いていた和磨を振り返った。

「あ?うん、いいけど。」

「じゃ、今からは?」

「今からぁ?」

「唯とデートするつもりだった?」

香奈は拓未並みに鋭い。

コイツも侮れないな・・・。

和磨はそう思った。

「あ、その前にちょっとレンタル屋さん!」

そう言って香奈が拓未の腕をぐいっと引っ張って方向転換した。

「レンタル屋?何しに?」

拓未は香奈に半分引きずられながら歩いている。

「バンドでやる曲、借りてくの。」

「あー、なるほど。」

「実際にやる曲で腹式呼吸教えてもらった方がいいと思って。」

香奈の中ではもうすっかり今から腹式呼吸のレッスンをやることになっているらしい。

「俺、まだ今からやるとも言ってねぇけど・・・。」

和磨がボソッと呟くと、

「なんか言ったー?」

と、すかさず香奈から言われ、

「いや、なんでも。」

和磨はそう答えるしかなかった。

 



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