言葉のかわりに−第二章・4−

 

 

次の日から昼休憩に唯と香奈は二人で音楽室のピアノを借りて

歌のレッスンをする事になった。

和磨から教えてもらった腹式呼吸を思い出しつつ、

最初に軽い発声練習、その後歌の旋律に沿って

一音一音ピアノの音を聞いてあわせていく。

元々、歌がうまい香奈は音程に問題はなく、腹式呼吸に慣れていくだけだった。

 

そしてその週末の土曜日。

さっそくOracleのスタジオ練習があった。

平日の唯とのレッスンの甲斐もあり、練習はすんなりと進んだ。

 

3時間の練習が終わり、Oracleのメンバーがスタジオを出ると

ちょうどJuliusのメンバーもスタジオから出てきたところだった。

「あ、拓未!」

香奈は拓未に手を振った。

「おぅ!」

拓未も香奈に気づき、手を振り返した。

唯と和磨はお互い無言で小さく手を振っている。

「あんた達、相変わらず無口なカップルね。」

香奈はボソッと言い放つとクスリと笑った。

 

Oracleのミーティングが始まり、スタジオ練習を録音したMDを聴きながら

反省点やアレンジについて話し合う。

「初回の練習にしては、あたしはいい出来だと思うけど、みんなはどぅ?」

MDを一通り聴き終えて、リーダーの真由子が口を開いた。

「そうだね、香奈ちゃんもバンド初心者とは思えないくらいだし。」

「ちゃんと腹式呼吸もできてるしね。」

そう言って瑤子と奈津子も香奈を褒めてくれた。

「んー、それはきっと指導者がいいから。」

香奈はにんまりと笑った。

「それって唯ちゃん?」

「唯もだけど、もう一人。」

そう言って香奈は横でミーティングしている和磨達をちらりと見る。

「そういえば唯ちゃんと香奈ちゃん、さっきJuliusのメンバーに

 手振ってたけど知り合い?」

瑤子にそう聞かれ「え?う、うん・・・まぁ・・・。」と唯は曖昧に返事をした。

和磨と付き合っている・・・とはハッキリ言えなかった。

人気のあるバンドのヴォーカルだし、なんといっても学校一の有名人だ・・・。

唯があまり公にしたくなさそうなのを察し、

香奈も「まぁ・・・ね。」とだけ答えた。

その会話が和磨と拓未の耳にも入っていた事は気づいてはいない。

 

「じゃあ、また明日。」

Oracleのミーティングが終わり、真由子達は唯と香奈を残して先に帰った。

隣でミーティングしていたJuliusはというと・・・やはりとっくに終わっていた。

准と智也は今日も先に帰ったようだ。

「“また明日”って聞こえたけど明日も練習?」

拓未が香奈の後ろから顔を出した。

今日もまた待ちくたびれました・・・と言う顔になっている。

「うん、即席バンドだから合わせられる時に合わせておかないと。」

香奈はそう言いながら拓未の頬を両手でプニプニと摘んだ。

「そういえばJuliusって、結成したのいつ?」

遊んでいる香奈と拓未をよそに隣に移動してきた和磨に唯が聞いた。

「高校入ってからすぐくらいかな。」

「じゃあ約2年半かぁ・・・。」

「うん・・・ところで唯はバンドってやったことないの?」

「うん、ないよ。」

「じゃ、クラシック以外の曲って初めて?」

「ううん、そーゆーワケでもないよ。家でたまにロックとかポップスとか

 ジャズなんか弾く事あるし。」

実際、Juliusの曲だって弾いている。

「へぇー、クラシックしか弾かないのかと思ってた。」

和磨が意外そうな顔をした。

「んじゃ、ロックとかもフツーに聴いたりするの?」

「うん。・・・あ、でも所謂ハードロックとかヘビメタとかは聴かないけど。」

「じゃあ、日本のバンドの中で一番好きなのは?」

「もちろんJulius。」

唯は即答してにっこり笑った。

それを聞いてちょっと顔を赤くする和磨。

さらにその様子を眺めてニヤついている香奈と拓未。

「じ、じゃあ・・・二番目に好きなのは?」

「Mr.Children。」

「えっ!?マジ?」

Mr.Childrenが好きだったのがそんなに意外だったのだろうか?

「意外?」

唯はクスクスと笑った。

「ん・・・てか、俺も好きだから。」

「えっ!?そうなの?」

「うん。」

和磨はにっこり笑った。

「つーか、おまえら今さらそんな会話で盛り上がってんのかよー。」

隣で頬杖をついて会話を聞いていた拓未が突っ込んできた。

確かに唯と和磨が付き合い始めて既に2ヶ月が過ぎている。

普通のカップルならとっくにお互い好きなアーティストが

一緒だということが判明しててもおかしくない。

「“無口なカップル”だから仕方ないよ。」

香奈はプププッと笑っている。

「まぁ、片方は“恋愛初心者”だしな?」

拓未はにやっと笑って和磨をちらりと見た。

「てか、両方だと思うよ?」

香奈もにやりとして唯に視線を移した。

「「・・・。」」

そして何も反論できない唯と和磨。

「さて、“初心者いじり”はこれくらいにしてそろそろ帰るか。」

拓未はそう言うと香奈と手を繋いで「ばいばーい!」と去って行った。

 

「“初心者いじり”じゃなくて今のは“初心者いじめ”だろ・・・。」

和磨がボソッと呟いた。

「でも、かず君は“恋愛初心者”じゃないでしょ?」

「拓未に言わせるとそうらしいけど?」

「?」

唯はどこが?と言った顔をしている。

「あのさ・・・」

「うん?」

「前からちょっと気になってた事があって・・・」

「なぁに?」

「思い切って聞くけど・・・」

「うん。」

「・・・俺で何人目?」

「?」

「いや・・・だから、その・・・唯が付き合った男の数。」

和磨は少し言いにくそうに聞いてきた。

「・・・初めてだよ。」

「・・・え、うそ。」

唯の答えを聞いて和磨は驚いた。

「俺が初めて・・・?」

「う、うん・・・。」

唯は少し顔を赤くして俯いた。

「で、でも・・・俺の前にも告白とかされたりした事、“絶対”あるだろ?」

実際、和磨は岡本の告白を立ち聞きしてしまっている。

だから“絶対”と言える。

「あるけど・・・」

「全部断ってたんだ?」

「う、うん。」

「だから上木さんが唯も“恋愛初心者”って言ってたのか・・・。」

「そーみたい。」

唯はクスッと笑った。

 

“恋愛初心者”同士・・・。

 

和磨はなんだかホッとした。

 



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