言葉のかわりに−第二章・9−

 

 

唯は保健室を出てからもずっと俯いたままだった。

「足・・・痛むのか?」

和磨は唯の様子が気になっていた。

「え?」

「なんか・・・元気ないから。」

「あ、ううん、大丈夫。」

そう言って笑って見せるがその顔はやっぱり引き攣っている。

(ファンの子を放ってきた事気にしてんのかな?)

「唯・・・。」

「・・・ん?」

「俺は・・・ファンの子より唯の方が大事だから。」

「・・・でも・・・」

「確かにファンがいる事はありがたいと思う。

 けど・・・例え故意じゃないとしても、あんな風に唯が怪我させられて

 ファンの子と平気で一緒にいるなんてできない。」

「・・・。」

「ホントは俺が保健室に連れて行きたかったくらい。」

和磨は真剣な顔をして唯をじっと見つめた。

「かず君・・・。」

「てか、せっかく拓未達も消えて二人になれたんだし・・・な?」

和磨は優しく微笑みながら「だから、もう気にするな・・・。」

と唯の頭を右手でクシャっと撫でた。

「・・・うん。」

その言葉に唯は頷き、笑みを返した。

すると、和磨は制服のポケットに入れていた左手を出し、唯の右手と繋いだ。

「・・・っ!」

唯は驚いたまま固まってしまった。

和磨と学校内で手を繋ぐのは初めてだ。

尤も、唯が捻挫をしたあの時は、腕を組んでいたが。

「嫌?」

和磨にそう聞かれ「そ、そんな事ない・・・。」

と答えたものの、唯はすれ違う女子生徒の視線をビシビシと感じていた。

 

和磨と手を繋いだまま校内を回っていると

グラウンドで野球部がストラックアウトの模擬店をやっていた。

 

一回300円。

持ち球は12球。

4球失敗で競技終了。

2枚抜きすれば失敗できる球が増える。

 

抜いた枚数によって景品がもらえるらしい。

9枚全部抜くことができれば東京ディズニーリゾートの一日パスポート。

ちなみにペアだ。

8枚だと、Afternoon Teaのペアマグカップ。

7枚なら、Francfrancのストラップ。

これもペアだ。

6枚以降は・・・どうでもいい景品ばっかりだった。

「9枚抜き狙ってみるか・・・。」

和磨は制服の上着を脱ぎ、ネクタイを外すと「これ持ってて。」と唯に渡した。

「え・・・?う、うん。」

唯は唖然としながら和磨を見つめていた。

 

和磨は野球部員から12個のボールが入ったカゴを受け取り、マウンドに立った。

そして小さく息を吐き出して振りかぶる。

1球目、見事中段の左側、4番を抜いた。

(よっし!)

和磨は小さくガッツポーズをした。

 

2球目は惜しくもフレームに当たってはじかれてしまった。

和磨は眉間にしわを寄せた。

 

・・・3球目、上段の真ん中2番を抜き、

4球目と5球目もそれぞれ上段の1番と3番を抜いた。

(このまま当たり続けてくれれば・・・。)

けど、世の中そんなに甘くない。

 

6球目、またフレームに当たってしまった。

 

唯は「頑張って!」と言って和磨を応援した。

唯の応援が効いたのか7球目、今度は下段の真ん中と右側の8番と9番を二枚抜きした。

(よっしゃ!この調子ならホントに9枚抜きいけるか・・・?)

だけど、そんな事を思って油断をしたのがいけなかったのか、

8球目はすでに抜いてある4番の位置を通り抜け、

9球目はガコーンッと言う鈍い音とともにフレームに当たってはじかれた。

 

後一球失敗すれば終わってしまう・・・。

(まずい・・・。)

唯は胸の前で祈るように手を組み、和磨を見つめていた。

 

10球目、深呼吸をして振りかぶる・・・しかし・・・

投げた瞬間、少し手元が狂ってしまった。

(・・・あっ!)

ボールはど真ん中の5番を抜いた。

ミラクルだ・・・。

だけど、これ以上失敗はできない。

 

11球目、ゆっくりと狙いを定めて慎重に投げた。

ボールはフレームの内側ギリギリのところで中段の右側6番に当たり、

辛うじてパネルを抜いた。

和磨は、ほぅっと息を吐いた。

後一球・・・。

(これ外したら笑えないよな・・・。)

和磨は大きく息を吐き、振りかぶった。

 



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