言葉のかわりに−第一章・2−

 

 

(久しぶりに寝坊してしまった。)

(今日はダッシュしないと間に合わないな。)

和磨は制服に着替えながらコーヒーをすすり、そんな事を考えていた。

 

「行ってくる。」

そう言いながら勢い良く玄関を飛び出し、走り出す。

ちょうど目の前の横断歩道の信号が点滅し始めた。

(やばいな。あれ渡りきらないと完璧遅刻だ・・・。)

和磨は走る速度を速めた。

横断歩道を渡りきったところで、勢いあまって誰かにぶつかった。

(あっ、やっちまった・・・!)

思ったよりも近くに人がいた為、避けきれなかったのだ。

目の前には小柄な女の子が座り込むように倒れている。

「ごめん。大丈夫?」

そう言って慌てて手を差し伸べる。

すると、不意に視線が絡み合った。

 

黒く長い髪。

少し頬を赤くして見上げてきた顔はどこか幼くかわいい。

じっと見つめてくる黒い瞳に思わず和磨はどきりとした。

 

「・・・唯?」

彼女の隣にいた友達であろう人物のおかげで和磨はハッと我に返った。

「あっ!・・・っ、え?、だ、大丈夫っ」

そう言って慌てて立ち上がろうとする彼女だが「痛っ」と小さく言ってまた座り込んでしまった。

(捻挫?させちゃったかな・・・。)

そう思いながら手が勝手に動いていた。

彼女の両脇に腕を通し、そっと立ち上がらせた。

(うゎ・・・ちっちぇー・・・。)

小柄な子だなと思っていた彼女は本当に小柄で、和磨のあごの辺りに頭があった。

その瞬間、彼女の髪からシャンプーの香りがし、和磨は抱き合う格好になっていることも忘れていた。

「あ、あの・・・っ。」

唖然としながら、なんだかものすごく慌てている彼女の様子に気がつき、和磨も慌てて口を開く。

「怪我、させちゃったみたいだな・・・。悪い。」

「あ、いぃえ・・・っ。」

俯いたまま答える彼女を学校の保健室まで連れて行くことにした。

小柄な彼女は和磨の肩に腕をまわすのは大変らしく、それなら・・・と、腕に掴まってもらうことにした。

大丈夫だから・・・と、始めは和磨の腕に掴まろうとしなかった彼女だったが、そのままでは歩けないと

観念したのか素直に腕に掴まって歩き始めた。

 

「俺。2年2組の篠原和磨。君は?」

「あ、えと・・・2年5組の神崎唯・・・。」

保健室で手当てをしてもらっている間に、名前と学年を聞いた。

(同じ2年生だったのか・・・。)

(これで年上だったらちょっとびっくりだけどな。)

そんな事を考えているうちに手当ては終わり、一週間くらいで治るだろうと言われ、少し安心した。

 

その後、彼女を教室まで送り、自分の教室へ向かった。

教室に入り、自分の席につくと前の席にいる親友(悪友?)の望月拓未が話しかけてきた。

「おぃっすー。」

「おぅ。」

「なぁ、おまえ5組の神崎唯ちゃんとつきあってんの?」

「なんだよっ、突然。」

「だって今おまえら抱き合いながら登校して唯ちゃんの教室まで行ってたし。」

「ちがうっ!抱き合ってねぇっ。あれは・・・さっき学校来る途中、俺が怪我させちゃったから・・・。」

「ふぅ〜ん・・・。」

拓未は悪戯っぽい目で和磨の顔を見つめてきた。

「なんだよっ。人の顔をじろじろと・・・気持ちのわりぃっ!」

「いやー、べっつにぃー。」

「横断歩道を慌てて渡ったら、勢いあまってぶつかって怪我させちゃったんだよっ。
 
 ・・・てか、なんでおまえあの子の名前とか知ってんだよ?」

「えーっ、おまえまさか知らねぇの?唯ちゃんていったらかわいくて有名だぜー?」

「へぇー、そーなんだ・・・。」

そういえば、唯を保健室まで連れて行く間や教室まで連れていく間、男子生徒の視線をやけに感じたのは

そのせいか・・・。

和磨は一人で納得しながら、窓の外に視線をやった。

 



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