言葉のかわりに−第一章・20−

 

 

帰り道を自転車で走りながら、和磨は先ほどの男性と唯の姿を思い出していた。

あの男性といた彼女の顔は、自分と会話している時には見せた事がないような笑顔をしていた。

この人を信頼している。

安心して横にいられる。

そんな感じすらした。

(彼氏なんだろうか・・・。)

考えてみれば結局、彼女についてはほとんど何も知らない。

知っているのは、クラスと名前、携帯とメアド。

4才からピアノを習っていて、絶対音感を持っていること。

それだけ。

それだけしか知らない・・・。

男友達がどれくらいいるとか、彼氏がいるかも知らない。

というより、彼氏がいたっておかしくない。

ただ、自分が知らないだけで・・・。

だいたい、あれだけ男子に人気のある彼女に彼氏がいないのもおかしい・・・。

(岡本の告白を断ったのは、さっきの男がいるからか・・・?)

断った理由だって本人からちゃんと聞いた訳ではない。

岡本に「彼氏がいるから・・・」と言ったのであれば、辻褄があう。

岡本が俺を彼氏だと勘違いした、けど実は彼氏は他にいた。

(これって・・・失恋確定・・・?)

和磨は自転車のスピードをあげた。

 

翌日、日曜日。

昼からあったバンドの練習とミーティングが終わり、

准と智也が用事で先に帰った後、拓未とファーストフードに入った。

すると、拓未が誰かを見つけて声を掛けた。

「唯ちゃん!」

「望月君!?」

(え・・・?)

彼女の目の前には昨日の男がいた。

なんだかおもしろくない・・・。

彼女が目の前の男を拓未に紹介している。

軽く挨拶を交わし、拓未は一緒のテーブルに座り、話し始めた。

「和磨、こっち!」

そう言って、俺にこっちへ来いと促している。

彼女は振り返り、俺に気づくと手を振ってくれた。

俺は軽く手をあげ無言で近づく。

(拓未のやつ、どういうつもりだ・・・?)

こいつは俺の気持ちを知っているんじゃないのか・・・?。

なぜ他の男と彼女がいるところにわざわざ俺を呼ぶ?

普通、気づかないふりでもして離れたところに座るだろ!

和磨は唯の隣の空いている席に腰掛けた。

「唯、学校の友達?」

彼氏がそう口を開いた。

「うん。」

にっこり笑って彼女はそう答える。

友達・・・。

確かにそうだ。

友達でしかない・・・。

その事が妙にチクリと胸を刺す。

「そっか!おまえ男友達少なそうだから心配してたんだよ。

 ちゃんといるんだな、よかった!」

そう言って、彼女の頭をクシャッと撫でた。

(よかった・・・?)

(おいおい、普通逆だろ?)

そんな事を思っていると彼氏は俺と拓未に

「妹をよろしく。コイツ家でピアノばっか弾いてるから、

 どんどん外に連れ出してやってね。」

と、言った。

(妹・・・?)

(え?・・・えぇっ??)

「い、妹・・・?」

俺が唖然とした顔で聞くと、

「あ、えっと・・・私の兄。」

と彼女が答えた。

拓未はニッと笑って俺を見た。

(そーゆーコトか・・・。)

拓未はさっき彼女から紹介されて兄だと言う事がわかったから俺を呼んだのか・・・。

「おにいちゃん、こちら篠原和磨くん。」

「唯の兄、雅紀です。よろしくね。」

そう言って彼氏・・・だと思い込んでいた彼女の兄はにっこり笑った。

なるほど・・・よく見れば笑った顔とか似てるな。

「えっと・・・篠原和磨です。よろしく。」

(アニキだったのかよ・・・。)

なんだかものすごくホッとしたと同時にどっと疲れが出た。

 

それから俺達四人はいろんな話をした。

彼女のお兄さん、雅紀さんは大学4年生。

俺達より5つ上だ。

4才からヴァイオリンをやっていて都内の音大に通っているらしい。

自宅から通うのが大変なので大学の近くで一人暮らし。

数ヶ月に一度、実家に帰ってくるらしい。

昨日はオーケストラのコンサートに兄妹仲良く見に行き、その帰りに

俺がバイトしているコンビニにたまたま寄ったとの事。

俺の失恋はまだ確定していなかった。

 



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