言葉のかわりに−第一章・22−

 

 

日曜日、クラシックコンサートがよく行われる都内でも有名なホールで

唯の通う音楽教室の演奏会が開かれていた。

毎年使っている会場だ。

その楽屋で唯は出番を待っていた。

今までトップや演奏会中盤の所謂佳境を任されることが多かったが、

今回はなんと、トリを任されてしまった。

いつになく緊張する。

衣装やヘアメイクをチェックし、楽譜を何度も確認する。

もちろん暗譜はしてあるが何度も確認しないと不安なる。

・・・コンコンッ。

ドアをノックする音が聞こえた。

「唯ちゃん、そろそろ出番よ。」

「はいっ!」

唯は少しビクッとした。

鏡の前で「よしっ!」と言って、自分に気合いを入れてから唯は楽屋を出た。

舞台の袖に待機すると、唯の前が出番だった松田弘人が最後の1小節を弾き終わるところだった。

ゆっくりと挨拶をして舞台袖へと下がってくる。

「お疲れ様、ヒロくん。」

唯は微笑み、そう声を掛けた。

弘人も無事演奏を終えてホッとしたのか、ニッと笑い、

「唯ちゃん、トリは任せた!がんばれ!」と言ってくれた。

「うん。」

唯は頷き、深呼吸をしてから舞台に向かってゆっくりと一歩踏み出した。

ピアノの前で一礼し、静かに座る。

一曲目はベートーベンのピアノソナタ第23番 『熱情』 第3楽章。

弾いているうちに自然と情熱的になってくる旋律は、

フッと脳裏にKazumaの顔を思い描かせた。

そして体中が熱くなってくるのが自分でもわかる。

何故だろう・・・?

何故、彼の顔が・・・?

自分でもよくわからない・・・。

 

二曲目はドビュッシーの『夢』。

題名の通り、まさに夢の中にいるような錯覚を起こさせる旋律だ。

今度は和磨の優しく微笑む顔が脳裏に浮かぶ。

唯はふわふわとした空気に包まれたように一音一音奏でていく。

居るはずがない・・・わかっているけど何故か

この会場のどこかに彼が居る気がした。

 

演奏を終え、大きな拍手と歓声に包まれた。

唯は何度も客席に深々と頭を下げ、舞台袖に下がっていった。

「お疲れ様!よかったよ!」

「最高の演奏だったよ!」

「さすがトリ!」

みんなが口々にそう言ってくれた。

 

楽屋に戻り、着替えを済ませて一息ついていると

コンコンッ。

「唯、私。入ってもいい?」

ドアをノックする音と香奈の声がした。

「うん。」

ガチャッ。

「お疲れさまーっ!」

そう言いながら入ってきた香奈の後ろには

なんと!

Juliusのメンバーがいた・・・。

 



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