言葉のかわりに−第一章・25−

 

 

エリは唯に気付くとキッと睨みつけ、

「あなた、和磨の新しい彼女?」

と、いきなり聞いてきた。

すぐ後ろから来ていた香奈は入り口の死角に隠れた。

「え・・・?」

唯はエリから先制攻撃を喰らい、驚いている。

「和磨があなたなんかに本気になると思ってるの?」

口調は穏やかなもののエリは明らかに唯に対して敵意を露にしている。

「あ、あの・・・?」

迫力さえ感じるエリに、唯は少したじろいだ。

「和磨は絶対本気にならないわよ?」

「・・・?」

「和磨が愛しているのは私だけだから。」

「・・・。」

(やっぱり・・・篠原くんの彼女なんだ。)

「和磨にからかわれてるって事。」

「・・・。」

(篠原くんは・・・そんな事・・・)

「和磨がやさしくするのは今だけよ。」

「・・・。」

「あんまりいい気にならないでね。」

「・・・。」

(別にそんなつもりなんて・・・。)

「和磨は渡さないから。」

「・・・。」

(何を・・・言っているんだろう・・・?)

「なんとか言ったらどうなの?」

「・・・。」

唯はただ黙って聞いているしかなかった。

 

何も言い返してこない唯に苛立ったのか、

「ちょっと!聞いてるの?」

とエリは声を荒らげた。

「いい加減にしたら?」

隠れたまま話の一部始終を聞いていた香奈が入り口の死角から出てきた。

「か、香奈・・・。」

唯は今にも泣きそうな顔をしている。

「なによ?」

エリは香奈を睨みつけた。

「篠原くんがいないとこで、こんな文句を言うなんてね。」

「わ、私は別に・・・っ!」

「ふーん・・・じゃ、今ここで言ってた事、篠原くんの前でも言える?」

「・・・。」

エリは黙り込んでしまった。

「言えないの?あなたがここで唯に文句を言ってたのを知ったら、

 篠原くんなんて言うかしら?」

「・・・っ!」

エリは眉を顰めた。

「か、香奈・・・、もう、いいよ・・・やめて・・・。」

居た堪れなくなった唯が、香奈を止めようとした。

「・・・。」

「・・・。」

エリと香奈はまだ睨みあったままだ。

「・・・とにかく、あんまりいい気にならないで!和磨は渡さないからっ!」

エリはそう言い残し、逃げるように去っていった。

「唯、大丈夫?」

香奈は俯いたまま動かないでいる唯に声をかけた。

「う、うん。」

「気にすることないよ?」

気にするなと言っても無理な話である。

「うん・・・大丈夫、ありがと・・・。」

そう言って無理に笑って見せようとする唯だが、

うまく笑えないでいた。

 

しばらくして、唯と香奈はJuliusのメンバーと店をでた。

「神崎さん、送っていくよ。」

和磨はさっきからなんとなく唯の様子が変なのに気付き、声をかけた。

「あ、ううん、大丈夫。ありがとう・・・。」

唯は震えそうになる声を押し殺してなんとか返事をした。

「でも・・・」

和磨が何か言い掛けた時、拓未が制した。

「それじゃ、ここで!」

香奈はJuliusのメンバーにそう言い、またね!と言って唯を連れて歩き出した。

その背中を和磨が苦しそうに見送っていた。

 



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