言葉のかわりに−第一章・26−
演奏会が終わり、彼女と香奈、俺達Juliusのメンバーで食事をして帰ることになった。
准と智也が自己紹介した後、彼女も自己紹介をした。
みんなが口々に彼女の演奏を褒めている。
彼女の顔がどんどん真っ赤に染まっていく。
さっきまであんなに堂々と演奏していた人とは思えないくらいだ。
そのギャップに思わず笑ってしまった。
(こういうとこ・・・すごくかわいいな。)
彼女のファンになったと言う准と智也に対抗して、
「俺は大ファンになったけど?」
と言うと、彼女はますます赤くなって俯いてしまった。
他のみんなもびっくりしている。
まぁ、俺自身もまさかこんなことが素直に言えるとは思ってみなかったけど・・・。
(でも、ホントのことだし・・・。)
そう思っていると、まだ少し頬を赤くしたままの彼女と目が合った。
俺は思わず笑みがこぼれた。
すると、彼女は恥ずかしいのかまた視線を逸らしてしまった。
(まいったな、かわいすぎる・・・。)
「和磨?」
不意に誰かに名前を呼ばれた。
俺は聞き覚えのある声のほうに視線を向けた。
「・・・エリ。」
俺は心の中で舌打ちした。
せっかく彼女との時間を楽しんでいたのに・・・。
三枝エリ。
同じ高校に通う一つ年上の3年生。
二ヶ月ほど前まで付き合っていた女だ。
「なんの用だ?」
俺がそう言うとエリはクスッと笑い、
「相変わらず、冷たいわねー。」
と、余裕たっぷりにじっと見つめてきた。
「・・・。」
俺は黙ったまま目線を逸らさないでいた。
「久しぶりに会ったって言うのに。」
笑顔を浮かべたまま、余裕すら見せているエリに苛立ち、
「なんの用だと聞いたんだが?」
そう言ってエリを睨みつけた。
「ただ、久しぶりに会ったから、話がしたくて声を掛けただけよ。」
苛立つ俺とは反対に、しれっとした顔でいいやがる。
笑ってさえいるエリにますます苛立ち、
「話すことなんか何もない。」
そう言うと、さすがに笑みが消えた。
「そう、お邪魔したわね。」
エリは踵を返すと、すこし離れたテーブルに戻っていった。
俺の隣に座る彼女を一瞥していったのは気になるが・・・。
俯いたままの彼女に何か声を掛けるべきか・・・なんて声を掛ければいいのか・・・。
そう考えていると、丁度料理が運ばれてきた。
その後は、香奈と拓未がうまく話を盛り上げてくれたおかげで
エリの事は頭から離れて行った。
店を出る前、唯と香奈が化粧室に行くといい、席をたった。
しばらくして、エリが化粧室から出てきたのが見えた。
その表情は遠目からみても穏やかとは言えない。
(なんだか嫌な予感がするな・・・。)
唯と香奈が化粧室から出てきた。
彼女の様子が明らかにおかしい・・・。
(やっぱり・・・エリと何かあったのか?)
店を出て「神崎さん、送っていくよ。」と彼女に声を掛けた。
「あ、ううん、大丈夫。ありがとう・・・。」
すると、彼女は俺と目も合わせないまま小さな声で言った。
「でも・・・」
気になるから・・・そう言い掛けた時、拓未が俺の腕を掴んだ。
拓未は顔を小さく横に振り、やめとけと言うアイコンタクトをしている。
俺がなんでだ?と言う顔をしていると、
「それじゃ、ここで!」
そう言って香奈が、俯いたままの彼女を連れて帰ってしまった。
俺はまた・・・見送る事しかできないのか・・・?
唯と香奈の姿が見えなくなった頃、
「あの女が唯ちゃんになんかしたと思ってんだろ?」
拓未は見透かしたように俺に言った。
「わかってんなら、なんで止めたんだ?」
「あの女が何をしたのか、わからないのにおまえは唯ちゃんに何ができる?」
「・・・。」
(確かにそうだ・・・だけど・・・。)
「今おまえが唯ちゃんをどうにかしようとしても、彼女は逃げていくだけだぞ。」
・・・その通りだ・・・現に彼女は俺が送っていくと言ったのを断った。
目も合わさずに・・・。
「・・・そう、だな。」
拓未の言うとおりだ・・・。
一体、エリは何をしたんだ・・・?
それがわからないと彼女に何も言えないし、何もできない・・・。
(くそっ!)
俺は唇を噛み締めた。
「後で香奈に聞いといてやるから。」
ハッとして顔をあげた俺の肩を拓未はポンと軽くたたくとウインクをした。
「・・・あぁ、・・・すまん、頼む。」
俺は大きくため息をついた。
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