言葉のかわりに−第一章・28−
昨夜、化粧室での一件を香奈から詳しく聞いた拓未が、
今朝、俺にすべて話してくれた。
昼休憩になり、俺がエリの教室に向かおうと席を立つと、
教室の入り口にエリが立っていた。
「和磨、ちょっといい?」
そう言って俺について来るよう目で促す。
なんの用があるのか知らないが、
タイミングよく現れたエリに俺はついていった。
放課後以外はあまり人の来ることがない
部室棟の裏に行き、エリは足を止めた。
俺はエリを睨みつけ「話はなんだ?」と切り出すと
エリはゆっくり振り返り、
俺の頬に右手を伸ばしてきた。
「ねぇ、私達やり直せない?」
俺はエリの右手首を掴み、壁に押し付けた。
同時にエリの体が壁にピッタリと縫い付けられる。
逃げられないようにエリの顔の横に、俺は右手をついた。
「ふざけるな。」
俺はなるべく冷静を装って言った。
最初から怒鳴ると逃げ出しかねない。
それじゃ彼女との一件が片付かないからだ。
「ふざけてない、本気よ。」
エリは真剣な目で見つめてきた。
「・・・だからなのか?」
「え?」
「だから、神崎さんにあんな嘘言ったのか?」
「っ!」
エリの表情が強張った。
「あの子達・・・しゃべったの?」
「様子があまりにもおかしかったから、連れに頼んで聞きだした。」
「・・・。」
「なぜ、あんな事を言った?」
「・・・。」
「言えよ。」
「・・・。」
エリは俺から視線を逸らした。
黙り込んでしまったエリに俺はイライラした。
「言えよっ!」
エリの体がビクッと動いた。
「・・・昨日、あの店で和磨を見た時、
あの子に笑いかけてたのが見えたの。」
エリはゆっくりと話し出した。
「その顔がものすごく優しくて・・・
私といた時は絶対あんな顔しなかったし、
笑うこともなかったじゃない。」
(当たり前だろ、楽しくなかったんだから・・・。)
「私だけじゃない・・・。」
「・・・。」
「他の子の時だってそうだったんでしょ?」
「あぁ・・・。」
(そうだ・・・どんな女と一緒にいても楽しくなかった。)
「悔しかったの・・・あの子だけに笑いかけてたのが。」
「・・・。」
「あの子より絶対私のほ・・・」
「ふざけんな!」
エリが全て言い終わらなくても何が言いたいかわかっていた。
「神崎さんより、おまえの方がなんだって?上だとでも言いたいのか?」
「・・・っ。」
「決めるのは俺だ。」
「・・・。」
「どっちが上か・・・とかじゃない。」
「・・・どういう事?」
「どっちと一緒にいたいか・・・誰と一緒にいたいかだ。
それを決めるのは俺だ。」
「・・・私は和磨といたい。」
「俺は、神崎さんと一緒にいたいんだ。」
エリは泣きそうな顔になった。
「おまえと寄りを戻す気はない。」
「・・・。」
「今度・・・」
「・・・え?」
「今度、神崎さんに何かしたら・・・」
「・・・。」
「その時は、・・・俺、おまえにどんな仕返しするかわかんないぞ。」
「・・・っ!」
エリは驚いた表情をしていた。
それはそうだろう。
今まで自分と付き合ってる女が、他のファンの子から文句を言われたって
何をされたって、知らん顔してきた俺が今回ばかりは違うのだから。
「本気・・・なのね?」
「あぁ・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
しばらくの沈黙の後、エリは真剣な顔で
「あの子に謝っておいて・・・。悪かったって。」
そう言ってきた。
おそらく本気で悪かったと思ったのだろう。
「・・・わかった。」
俺はそう言い、その場を離れた。
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