言葉のかわりに−第一章・29−
放課後、和磨は唯の教室に急いで向かった。
とにかく彼女と話をしなければ・・・。
とにかく彼女に話を聞いてもらわなければ・・・!
教室の中を覗くと唯の姿はなく、近くにいた彼女のクラスメイトに聞くと
すでに帰ったらしい。
(くそっ!遅かったか・・・。)
ありがとうと言って教室を飛び出し、彼女を追いかける。
和磨はただ彼女の姿を探し、追いかけた。
彼女と出会った場所・・・あの横断歩道で彼女に追いついた。
「神崎さんっ!」
振り返った彼女は驚いた顔をしている。
「し、篠原くん・・・?」
俺は全力疾走してきたおかげで、なかなかしゃべれない。
「どうしたの?大丈夫・・・?」
心配そうに俺の顔を覗き込む彼女。
ちょうど横断歩道の信号が青になった。
俺は無言のまま彼女の手を取り、横断歩道を渡った先にある公園へと向う。
「えっ!?ちょ・・・っ!あ、あの・・・っ!?」
彼女は突然の事で戸惑っているようだった。
だけど、そんな事はどうでもいい。
とにかく話がしたい・・・。
公園の人通りのない場所に彼女を連れていき、
俺はようやく息が整ったところでゆっくりと話を切り出した。
「・・・聞いたよ。エリに何を言われたか。」
「・・・っ!」
驚いた顔で俺を見上げる彼女。
「ごめん・・・。」
「・・・どうして篠原くんが謝るの?」
「俺の、せいだから。」
「・・・?」
彼女は少し怪訝な顔をした。
「二ヶ月前までエリと付き合ってたんだ。」
「・・・。」
「だけど、俺から別れようって言ったんだ。」
「っ!」
また驚いた表情になる彼女。
「俺から一方的に。」
「そんな・・・。」
ひどい・・・と言わんばかりの顔になる。
当たり前だ。
「だから・・・ごめん。」
「・・・。」
「アイツが納得いくような別れ方してたら、こんな事にならなかった・・・。
神崎さんにも嫌な思いさせなくて済んだのに・・・。」
「・・・。」
彼女はただ黙って聞いていた。
「あいつが言った事、全部ウソだから。」
「・・・え?」
「俺は・・・決して神崎さんの事、からかってたりしてた訳じゃないから。」
「・・・。」
彼女は次の言葉を待っているかように黙ったまま俺をじっと見つめている。
「アイツが言ってたように俺がアイツを愛してるとかはないし、
付き合ってる時も、好きじゃなかった。」
「え・・・、じゃ、どうして・・・付き合ったりなんかしたの?」
好きでもないのに・・・?といった顔で彼女が言う。
それはそうだろう・・・。
「あの頃は・・・好きでもない女と付き合うような人間だったんだ・・・。」
「・・・。」
「誰と付き合っても同じだと思ってた。
どんな女と付き合っても、楽しくなかったし。」
「そんな・・・。」
「だから、来るもの拒まずって感じだったんだ。」
「・・・。」
彼女は俯いて何か考えているようだった。
何を考えているかはわからない・・・。
俺が今言ったことを理解しようとしているのか、
エリの言葉を思い出しているのか・・・。
「俺のこと軽蔑した?」
「・・・そ、それは・・・。」
俯いたまま、俺と視線を合わせようとしない。
(やっぱり・・・な。)
それはそうだろう。
好きでもない女と付き合って、楽しくねぇから一方的に別れるような
そんな男だし。
いや、だったし・・・。
実際、そのおかげで彼女に嫌な思いまでさせた・・・。
「俺の事が・・・信じられない・・・?」
俺は思い切って彼女に問いかけた。
「・・・。」
答えられずにただ俺の顔を不安そうにみつめている。
「・・・。」
彼女は視線を外し、また俯いてしまった。
俺が彼女の事をほとんど知らないように、彼女だって俺のことを
ほとんど知らないはずだ。
だから、信じらない?と聞かれてもそもそも知らないんだし、
かと言って、信じられる?と聞いたところで答えられないだろう。
「信じてほしい・・・。」
「っ!」
彼女がハッと顔をあげた。
視線が絡み合う。
吸い込まれそうなほど真っ黒なその瞳には、俺が映っている。
「俺、嘘はついた事ないから・・・。」
「・・・。」
「確かに今まではひどい付き合い方もしてきた。
だけど・・・それでも相手に対して嘘をついたりした事ない。」
「・・・。」
「だから・・・、俺の言葉を信じてほしい。」
彼女はしばらく俺をじっと見据えた後、
小さくコクンと頷いた。
俺は思い切って次の言葉を口にした・・・。
「俺が好きなのは・・・」
ネット小説ランキング>恋愛コミカル部門>「言葉のかわりに」に投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)