言葉のかわりに−第三章・3−
―――翌日。
今日は香奈と拓未の面談がある日だ。
「そういえば、唯。昨日の面談どうだった?
当然、音大に行くんでしょ?」
香奈もやはり唯が音大に行くと思っているのか、
当たり前のように言った。
「うん・・・音大というか、音楽院・・・かな?」
「音楽院?・・・それってどこ?都内?」
「あ、えっと・・・パリのコンセルヴァトワール。」
(え・・・?)
和磨は一瞬、唯が何を言ったかわからなかった。
「「パリ!?」」
香奈と拓未は同時に声をあげて驚いた。
「うん、思い切って受けてみようかと思って。」
(パリ?・・・フランス。)
「日本の音大に行くことも考えたんだけど、結構時間もロスしてるし。」
「そっか・・・。」
香奈は唯の言った“時間もロスしてる”の意味がわかっているのか、
妙に納得している。
(“時間もロスしてる”って・・・どういう意味だ?)
和磨はその言葉の意味もわからなかったが、
何より、唯が日本を離れる事を考えていた事がショックだった。
もし、唯がそのパリの音楽院の試験に受かれば、来年の今頃は
もう一緒にいられないかもしれない・・・。
(やっぱり・・・唯は俺とは違う世界の人間なのか?)
後、どれくらい唯と一緒にいられるのだろう?
それに・・・離れることになったとしたら・・・。
和磨はその先を考えるのをやめた。
考えても仕方がない。
一緒にいられる今を大切にしなければ・・・。
「かず君はやっぱりプロを目指すの?」
唯は和磨がバンドを本気でやっているのをわかっているからか、
あっさり和磨が考えていることを言い当てた。
「うん。」
和磨がそう返事をすると、
「かず君なら、きっと大丈夫。」
唯はにっこりと笑った。
その笑顔は、サラブレッドとかそういったものを感じさせない
和磨の事を誰よりも応援してくれている“彼女”の顔だった。
「ところで和磨も昨日、面談あったんだろ?どうだったんだ?」
和磨と同じくプロになる事を考えている拓未は、
担任の反応はどうだったのかを聞いた。
「・・・ん?まぁ、先生には予想通りの事言われたけどな。」
和磨は苦笑いしながら拓未の方に視線を向けた。
「やっぱ、そーかぁ・・・。で、親には?相変わらず反対されてんのか?」
拓未は和磨の両親がプロになる事をずっと反対していたのも知っている。
「昨日は珍しく親父も早く帰ってきたから、その話をしたんだけどさ、
やっとOKしてくれたよ。」
「おぉっ!?マジで?」
拓未はまるで自分の事のように嬉しそうに言った。
「あぁ。・・・けど、成績は落とすなって条件付きだけどな。」
和磨も嬉しそうに返事をした。
「そんなのお前なら楽勝だろ?」
拓未は和磨ににやりと笑って見せた。
「まぁな。」
和磨は苦笑した。
と言うのも成績は悪くはないが、そもそも今までだって
本気で勉強していないからだ。
そんなワケで、何もしなくてもこのままで成績はキープできる。
「これで後は、俺と准と智也だな。」
拓未の両親もやはりプロになる事を反対していた。
准と智也の両親も然り。
「・・・てゆーか、准と智也のとこはともかく、問題は俺かもな。」
拓未はため息交じりにそう言うと、頬杖をついた。
午後、唯と和磨は面談がある香奈と拓未を置いて二人で帰っていた。
「唯、今日も今から練習?」
唯は去年の12月に出場したコンクールで3位に入賞した。
今度、そのコンクールの上位入賞者による演奏会があるのだ。
その為、唯はここ最近ずっと練習漬けの日々を送っていた。
「うん、今日はリハーサル。」
「・・・そっか、頑張れよ。」
和磨は優しく唯に微笑んだ。
「うん。」
唯も和磨に笑みを返した。
本当はもっと唯と一緒にいたい・・・。
最近ずっと練習や音楽教室のレッスン、演奏会のリハーサルで
まともに二人きりでゆっくり会っていなかった。
それどころか、メールや電話すらまともにできないでいた。
今日だって午前中で学校が終わったから、ゆっくり話がしたかった。
だけど、唯は今からリハーサルがある。
仕方がないこと・・・。
わかってはいる・・・。
今度の唯の演奏会はいつもより大きなホールで、しかもオーケストラとの共演らしい。
コンクールの上位入賞者だけが出演する演奏会という事で、マスコミの取材も
テレビカメラも来るらしく、テレビで放送される事も決まっている。
唯にとっては大事な舞台であり、大きなチャンスだ。
それに・・・今までだって唯が和磨にバンドの事で口を出したりすることは
絶対になかった。
それだけに和磨がわがままを言って邪魔をする事はできない。
和磨は唯に気づかれないように、小さくため息をついた。
―――次の日。
登校して来た唯と香奈が教室に入ると
和磨の隣で思いっきり不貞腐れた顔をした拓未がいた。
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