言葉のかわりに−第三章・5−

 

 

翌朝、唯と香奈が教室に入るなり「唯ちゃん!」と言って

昨日とは打って変わって満面の笑みを浮かべた拓未が駆け寄ってきた。

 

「・・・え?」

唯はたじろぎ、後ずさりをした。

 

そして、拓未はいきなり唯に抱きついた。

「唯ちゃんのおかげだよ!ありがとう!」

 

「な、な、・・・何?、何・・・っ!?」

唯はあまりに突然の事で何がなんだかわからず、おろおろしていた。

それを見ていた和磨は慌てて唯と拓未に駆け寄り、

「拓未!おまえ、何やってんだ!」

と言って、唯から拓未を引き剥がした。

唯の隣でポカンと口を開けて見ていた香奈は和磨の声で我に返り、

拓未に回し蹴りをお見舞いした。

「この・・・、浮気者ーーーっ!!」

 

ドガッ!

 

「ぐはぁ・・・っ。」

拓未は小さくうめき声をあげ、横腹を押さえてよろめいた。

香奈の蹴りが見事、拓未の横腹にクリーンヒットしたのだ。

和磨も一発蹴りをいれようとしていたが、

先に香奈の回し蹴りが炸裂した為、やめたようだ。

 

「ひっでぇー・・・。」

香奈を見上げてそう呟いた拓未は涙目になっている。

 

「・・・ふん!」

香奈はプイっと拓未に背を向けてスタスタと自分の席へといった。

 

「も、望月くん・・・大丈夫・・・?」

唯が心配そうに拓未の顔を覗き込むと、

「今のは、コイツが悪いんだから放っておけよ。」

和磨がそう言い放ち、唯の手を引いて自分の席へと戻っていった。

 

拓未もヨロヨロとした足取りで席へ戻って来ると

「香奈・・・誤解だ。」

と、目の前に座っている香奈の背中をツンツンつついた。

香奈は振り返り、ジロリと拓未を睨みつけた。

 

 

結局、拓未が唯に抱きついた理由は、和磨を介して聞いた唯の言葉のおかげで

父親とちゃんと向き合い、納得がいくまで話し合って、

バンドでプロを目指すことを一応認めてもらえたから・・・と言う訳だった。

本人曰く、ハグの類のつもりだったらしい。

 

「だからって、何も抱きつくことはないだろ。」

「そうよ。」

和磨と香奈は結託して、拓未を責めていた。

 

「あぅっ、ごめんって・・・。」

ただただ謝るばかりの拓未・・・、

そしてその様子を見ていた唯は

「あ、あの・・・そろそろ許してあげたら・・・?」

と、拓未を気の毒に思い、和磨と香奈を宥めた。

 

「「唯は黙ってて。」」

和磨と香奈は同時に唯を制した。

 

「は、はいぃ・・・。」

 

 

その後、拓未はHRが始まるまで、二人に謝り続けていた。

 

 

―――昼休憩。

お弁当を食べる時、唯と香奈は机の向きを変えて

和磨と拓未の机とくっつけた。

 

「お、和磨が弁当持参なんて、珍しいな。」

 

「今日はお袋がいたから。」

 

「篠原くん、いつもお弁当じゃないの?」

 

「うん、コイツほとんど弁当持ってこないから。」

 

「そうなんだ。」

 

「まぁ、うちはほとんどお袋がいない事が多いから。」

 

「篠原くんのお母さんでお仕事何やってるの?」

 

「あー・・・、まぁ、所謂スッチー?」

 

「「えっ!?」」

唯と香奈は素っ頓狂な声をあげた。

 

「それって・・・すちゅわーです?」

 

「うん、今風で言うならキャビンアテンダント・・・かな。」

和磨はしれっとした顔で言った。

 

「「すごーい!」」

唯と香奈は顔を見合わせている。

 

「国際線?」

「うん、そうらしい。」

「じゃ、英語とかぺらぺら?」

「うん。」

 

「じゃ、いろんな国とか行ったりする?」

「やっぱり綺麗?スタイルとかいいの?」

「芸能人とかにも会えたりする?」

香奈は次々と和磨に怒涛のごとく質問をぶつけた。

和磨はその勢いに圧倒され、返事もできないでいた。

 

 

結局、香奈の質問攻めを聞いててわかった事・・・。

和磨のお母さんは国際線のキャビンアテンダント。

お父さんも実は国際線のパイロット。

実は和磨は帰国子女。

ロサンゼルス生まれで、アメリカ国籍も持っている。

というワケで、両親はもちろん和磨も英語がぺらぺら。

小学校3年の時に日本に帰国。

拓未とは帰国して以来の付き合いらしい。

 

そんなワケで和磨の両親がほとんど家にいないと言うのは、

外国へフライトする事が多い為だとか。

確かに、美奈子はスタイルもよく美人だ。

唯は美奈子がキャビンアテンダントと言うのも頷けた。

 



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