言葉のかわりに−第三章・6−

 

 

―――それから数日後の日曜日、いよいよ唯の演奏会の日。

 

いつもと少し違い、コンクールの上位入賞者だけが出演する

特別な演奏会という事で、聴きに行く和磨達も正装とまでは

いかないものの、スーツを着ていた。

香奈も今日は白いワンピースを着てハイヒールを履いている。

 

「やっぱりイケメン四人が、びしぃーっとスーツを着て並ぶと

 見応えがあるわねぇー。」

Juliusのメンバー全員が並んでいるところを見て、香奈がため息交じりに言った。

前回は用事あって来られなかった准と智也も今日は一緒に来ている。

 

「そういう香奈も、今日は大人っぽいじゃん。」

拓未は香奈にニヤッと笑って見せた。

 

「てか、ハイヒールなんてあんまり履かないから、すでに足が痛いんだけど。」

香奈は履き慣れていないハイヒールに苦戦し、歩きにくそうだ。

 

「まぁ、もう少しで会場に着くから頑張れ。」

拓未はそんな香奈を見て苦笑した。

 

 

会場に着くと、マスコミ関係やテレビカメラ、芸能関係者と思われる人物が

すでにあちこちで取材をしていた。

 

「すげっ。」

そんな中、拓未が何かを見つけたようだ。

拓未の視線の先を見ると、演奏会に出演する3人の大きなパネルが飾られていた。

コンクールで1位から3位に入賞した3人。

もちろん3位入賞者のところは唯の写真だ。

赤いキャミソールドレスを着て、微笑んでいる。

 

「おぉぉっ、唯ちゃんだ。」

智也はゆっくりとパネルに近づいた。

 

「すごく綺麗に撮れてるね。」

そう言って准もパネルに近づく。

 

「やっぱドレス着ると少し印象が変わるな?」

拓未は和磨に視線を向けながら言った。

 

「・・・。」

しかし、和磨は拓未が話しかけているにも拘らず、

無言で写真に見惚れていた。

 

「そんなに見てると穴が開くよ?」

香奈はそんな和磨を見てケラケラと笑った。

 

 

開演時間が近くなり、和磨達は客席に入った。

舞台上と舞台の前には数台ずつテレビカメラが設置してある。

今日の演奏会は数週間後にテレビでも放送されるらしい。

和磨は絶対DVDに録って、永久保存版にしようと考えていた。

 

客席の照明がおとされ、オーケストラのメンバーが出てきた。

コンサートマスターがチューニングを行い、オーケストラの音が整ったところで

深い紫色のサテンドレスを着た唯が指揮者の後に付いて出てきた。

相変わらず舞台の上では堂々としている。

唯は和やかに一礼し、ピアノの前に座ると指揮者とアイコンタクトを交わして

ゆっくりとピアノを弾きはじめた。

 

ラフマニノフ

『ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調』

 

ピアノ協奏曲というジャンルの中でも、人気の高い作品の一つ。

わかりやすい旋律美が魅力ではあるが難曲でもある・・・。

と、・・・唯が言っていた。

確かに綺麗で耳に残るアルペジオはクラシックに詳しくない和磨達にも

聴きやすく、途中から入ってくる管弦楽がより一層美しさを感じさせた。

唯の言っていた通り、第一楽章に続いて第二楽章、第三楽章ともに

綺麗な旋律が印象的だ。

 

 

演奏が終わると歓声とともにスタンディングオベーションが

沸き起こった。

唯は笑顔で立ち上がると、歓声と拍手にに応える様に何度もお辞儀をした。

指揮者やコンサートマスターと握手を交わした後、舞台袖に下がってからも、

拍手は鳴り止まず、何度も舞台に出てきてはお辞儀をする。

 

「すごい・・・。」

和磨の口から思わず出た言葉だったが、香奈や拓未達も「うん。」と言って

頷いていた。

 

いつまでも鳴り止まない拍手と歓声。

舞台の上にいる笑顔の唯はものすごくキラキラして見えた。

和磨は嬉しい反面、寂しい気持ちもあった。

 

多分・・・これはほんの序の口・・・。

唯が目指している世界はもっと広くて、輝いていて・・・。

きっとパリに行ってしまえば今感じているよりももっと

遠い存在になってしまうような気がした。

 

 

何度目だったか・・・客席の拍手に応える為、再び舞台に出てきた唯は

一礼した後、ピアノの前に座った。

 

(アンコール・・・?)

 

まさかアンコールがあるとは思わなかった。

客席が静かになったところで唯はゆっくりとピアノを弾きはじめた。

ドラマティックで少し悲しげな旋律、長くはない曲だけれど

客席を魅了するには十分だった。

 

そしてアンコール曲を弾き終えた唯はまた何度も拍手と歓声に応えた後、

舞台の袖に消えていった。

 

 

次の演奏者の前に15分の休憩があるとアナウンスがあり、

和磨達は唯の楽屋へ向かった。

唯は楽屋の前で、指揮者やオーケストラのメンバーと話をしていた。

 

「唯。」

香奈が名前を呼ぶと、唯は嬉しそうに手を振って近づいてきた。

 

「みんな来てくれてありがとう。」

そう言って微笑んだ唯の顔はやっぱりいつもと一緒だった。

 

「唯ちゃん、この後取材とかあるんだろ?」

拓未はさっそくデジカメを片手に持っている。

 

「うん。」

 

「んじゃ、今のうちにこっちの撮影会やっとこうぜ。」

拓未がニヤリと笑った。

 

まずはお決まりの和磨と唯のツーショットから。

後は、Juliusのメンバーと撮ったり、香奈と撮ったり。

もちろん唯だけを撮ったり。

 

 

そして―――

演奏会も無事に終わり、この後取材や撮影、オーケストラとの

打ち上げがある唯に「また明日。」と言い、和磨達は会場を後にした。

 



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