言葉のかわりに−第三章・9−
―――5月の初め。
唯達の高校では、なぜかこの時期に体育祭がある。
学年対抗の3チームで競い、優勝しても特に何かあるワケでもない。
唯は午前中、何も出るものはなく応援のみ。
午後からは昼休憩の後に行われる応援合戦と騎馬戦、
後は最後の学年対抗リレーに出る。
香奈は午前中の障害物競走、午後は唯と同じ応援合戦と騎馬戦だ。
和磨は午前中、借り物競争と午後の騎馬戦と学年対抗リレー、
拓未は午前中の障害物競争、午後は和磨と同じ騎馬戦と学年対抗リレーだ。
香奈と拓未は障害物競走に出る為、スタート位置に行った。
先に女子の部、後に男子の部が行われる。
網を潜ったり、跳び箱を飛んだり、平均台の上を走ったり、
ハードルを越えたり・・・最後はパン食い競争のように
吊るしてあるパンを口で取ってゴールする。
スポーツ万能の香奈は、予想通り1位でゴールした。
「おかえりー。」
仲良くパンを片手に戻って来た香奈と拓未に唯が声をかけた。
「ただいまー。」
1位の香奈は満面の笑みだ。
「惜しかったな。」
和磨は惜しくも2位だった拓未にちらりと視線を移した。
「んまぁ、あんなもんだろ。てか、1位になったのって陸上部の奴だし、
勝てるワケがねぇ。」
拓未はそう言うとさっそくパンの袋を破り、半分にわけて食べ始めた。
そしてもう半分を和磨の口に突っ込んだ。
借り物競走のアナウンスが流れ、和磨はスタート位置に向かった。
スタートして50mの地点に置いてある箱の中にある紙のくじを引いて、
書かれている“モノ”を持ってゴールする。
ゴールにいる審査員に紙を見せて、書かれている通りの“モノ”なら
そのままゴールが認められる。
通常は、眼鏡だったり、ボールペンだったり、時計だったりするが、
中には意地悪な“モノ”が書かれている事がある。
和磨の番になり、黄色い声援が飛び始めた。
拓未の障害物競走の時もすごかったが、さすがに学校内で1番人気の和磨は、
さらに女子生徒達の声援がものすごかった。
スタートした和磨は一番早く箱の中のくじを引いた。
紙に書いてある“モノ”を確認すると、少し驚いたような顔をしたが、
すぐに唯の方へ方向転換して走り出した。
唯の周りの女子生徒達は何かを借りに来るのだと思い、
ボールペンやシャーペン、時計などを用意してキャア、キャア言っている。
「唯、一緒に来て!」
和磨は唯の手を取り、再びゴールに向かって走り始めた。
「え?・・・な、何?」
唯は突然の事で何がなんだかわからない。
「いいから、いいから。」
和磨は唯ににやりとしてみせた。
周りでは女子生徒達の悲鳴じみた声があがっている。
唯と和磨は、そのまま1着でゴールした。
和磨は審査員に紙を差し出して、「この子。」と言った。
そして審査員がマイクで書かれている内容を読み上げた。
「あなたの好きな人。」
和磨は、まんまと意地悪な“モノ”が書かれたくじを引いたようだ。
唯は真っ赤になって俯いた。
結局、和磨のゴールはそのまま認められ、
女子生徒達の悲鳴が最高潮に達し、
そんな中、二人は手を繋いだまま香奈と拓未のところに戻っていった。
「なかなかやるねぇー、篠原くん。」
そう言った香奈に和磨はニッと笑ってみせた。
昼休憩の後、いよいよ唯が出る午後の部がはじまった。
まずは香奈と一緒に出る応援合戦。
一年生と二年生の後、唯達三年生が出てきた。
一年生はパラパラ、二年生は学ランを着込んで応援団をやった。
三年生はチアーダンス。
背の低い唯は最前列にいる。
しかもセンターポジション。
香奈は二列目だ。
みんなお揃いの青のユニフォームを着て、手には黄色いポンポンを持っている。
いつもは長い髪をおろしている唯も、今日は体育祭だからかポニーテールにしている。
その所為か、本物のチアーガールみたいだ。
(あんな目立つとこにいたら、注目の的じゃねぇかっ!)
和磨の心配は的中し、男子生徒達はみんな唯を見ているようだ。
「お、唯ちゃんいい顔してるねー。」
少し不機嫌な顔をしている和磨の横では相変わらず
デジカメ片手に撮りまくっている拓未がいた。
(おぃ・・・っ。)
和磨は拓未を背後から睨みつけた。
応援合戦といくつか種目が終わった後、次は唯達四人が出る騎馬戦。
和磨、拓未、香奈は下で支える騎馬役。
騎手は一番体重が軽い唯だ。
前半はなるべく攻撃を避け、逃げ回り、
後半、生き残っている騎馬が少なくなったところで攻撃を開始。
先頭の和磨の動きがいいからか、唯は次々と相手の鉢巻を奪い取って行った。
というより、唯を狙って突進してくる騎馬や騎手を
和磨達が睨みつけ、怯ませていたからだった。
おかげで三年生が圧勝となった。
そして最後の種目、学年対抗リレーになり、香奈以外の唯と和磨と拓未は
スタート位置に並んだ。
拓未が3番目、唯が最後から2番目・・・アンカーの前だ。
和磨はアンカー。
つまり最後は唯から和磨へバトンタッチとなる。
スタートラインに最初の走者が並び、スターターピストルが鳴った。
第一走者は調子よくトップを走っていたものの、第二走者で二年生に抜かされた。
第三走者の拓未にバトンが渡され、二年生を抜き返し再びトップとなった。
しかし、唯にバトンが渡される頃には、また二年生がトップになり、
その差は50mくらいと結構な距離になっていた。
バトンを受け取った唯は全力疾走で走った。
元々、運動神経は良くはないが走るのだけは速かった。
唯はどんどん差を縮めていった。
(唯、走るの早っ!?)
和磨と拓未がポカンと口を開けていると、
アンカーである和磨にバトンを渡す頃には
逆転も可能になっていた。
「後は任せろ!」
和磨は唯に柔らかい笑みを向けるとバトンを受け取り、
女子生徒達の黄色い声援の中、
全力疾走し、二年生を見事抜き返した。
そして、そのままゴール。
見事三年生が1位となった。
「「やったーっ!」」
唯と拓未はハイタッチした。
全ての種目が終了して結果発表が行われた。
今年の3位は二年生、2位は一年生、1位は唯達三年生だった。
唯と和磨は、借り物競争でも応援合戦でも最後の学年対抗リレーでも
思いっきり目立っていた為、体育祭以来学校ではさらに有名人となった。
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