言葉のかわりに−第一章・3−
さっきからずっと眉間にしわをよせていた香奈が不意に口を開いた。
「和磨くんて、もしかしてあのKazumaくんかなぁ?」
「あのって、何よ?」
「Juliusの。」
「Julius?」
「唯、知らないの?この学校にいるって噂の高校生バンド。」
「ふぅ〜ん。」
「まぁ、唯はこーゆー噂には疎いもんねー。
メンバー全員イケメンなんだけど特にヴォーカルのKazumaくんが格好いいの!」
「へぇ〜っ。」
「まぁー、あたしはギターのTakumiくんのファンなんだけどね♪」
和磨が香奈の言っているヴォーカルの人かどうかは別にして、
きっと女の子に人気があるんだろうな・・・と唯は思っていた。
保健室に連れて行かれる時といい、この教室まで連れてきてもらう時といい、
すれ違う女子生徒の視線をビシビシと感じていたからだ。
今だって、クラスメイトの女子から質問が飛んできそうな勢いだ。
しかし、HRの開始を知らせるチャイムが鳴った事で救われた。
休み時間になると待ってましたと言わんばかりに女子からの質問が次々と飛んできた。
「神崎さんて、篠原くんとつきあってるの?」
「保健室で何してたの?」
「篠原くんとどーゆー関係?」
「篠原君と知り合いだったの?」
「いつ知り合ったの?」
唯が質問攻めに遭い、オロオロしていると代わりに香奈が口を開いた。
「唯と篠原くんは別になんでもないわよ。
今朝、篠原くんが横断歩道を走って渡ってて勢いあまって唯にぶつかったの。
その時に唯が足を捻って捻挫したからよ。」
その言葉で全員納得したのか「なーんだ・・・。」とか「なんでもないんだー、よかったー。」とか
好きな事を言いながら散っていった。
(やっぱり篠原くんて人気があるんだな・・・。)
唯は改めてそう実感した。
「香奈、ありがと。」
「いいよ。別にこれくらい。」
ニッと香奈は笑って答えた。
唯は元々おとなしい性格なのでこういう時は、いつもなんでもキッパリ言う姉御肌の香奈が助けてくれる。
帰りのHRが終わり、香奈と一緒に帰ろうと教室を出ると人だかりができていた。
唯が素通りして通り過ぎようとした時、
「神崎さん。」
不意に呼び止められ振り向くと、和磨ともう一人友達らしき人物が立っていた。
「あ・・・篠原くん。」
(人だかりの原因は篠原くんだったのね・・・。)
そんなことを思っていると、
「送っていくよ。」
そう言いながら和磨が近寄ってきた。
(ええぇぇぇぇぇっっっ!!!バカバカこないでよっ!
う・・・女子の視線が・・・。)
周りでキャーキャー言っている女子を気にすることなく和磨は唯の目の前に立った。
「あ・・・い、いいよ。一人で歩けるし。」
唯は顔が少し引き攣っているのがバレないように俯きながら答えた。
「いいじゃん、唯。せっかくこう言ってくれてるんだし。」
香奈がにやにやしながら言ってきた。
「か、香奈!?」
顔がますます引き攣った。
「じゃ、行こうか。」
和磨はそう言うと、さっと唯の腕を自分の腕にまわす。
「っ!?」
あまりの素早さに抵抗する間もなく、唯は声も出せずに驚いた。
和磨が唯に合わせるようにゆっくりと歩き出す。
(ある意味、地獄・・・。)
唯は捻挫が早く治りますようにと祈るばかりだった。
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