言葉のかわりに−第一章・30−唯視点
「俺が好きなのは・・・」
そう言って彼がゆっくりと私に手を伸ばしてきた。
次の瞬間、肩を引き寄せられ「神崎さんだから・・・。」
その言葉と同時にぎゅっと抱きしめられた。
(え・・・?今・・・なんて?)
(今のって・・・。)
(私の事が好きって・・・。)
私はびっくりして彼の言葉がすぐには理解できずにいた。
思ってもみなかった彼からの告白・・・。
私の頭の中を彼の言葉がリフレインしていた。
しばらくして私の顔を覗き込みながら
「神崎さん?」
と彼に呼ばれ、ハッと我に返った。
私が慌てていると、まっすぐに見つめられ
きっと今、顔が赤くなってる・・・と思いながら、
彼の真剣な眼差しから目を逸らすことができなかった。
「俺、神崎さんが好きだ。」
今度はハッキリと目を見つめながら言われた。
正直、どうすればいいのかわからない・・・。
私は・・・どうしたい・・・?
そんな事を考えていると彼は思い出したように
「あ・・・、もしかして・・・誰か付き合ってるヤツがいたりする?」
と聞いてきた。
そんな人いないよ。
「ううん、いないよ。」
いないけど・・・彼にはエリさん以外の誰かがいるんじゃないの?
「でも・・・篠原くんのほうこそ、誰か付き合ってる子がいるんじゃないの?」
私は、思い切って聞いてみた。
「いや、そんな事ないよ。」
彼は即答した。
なんだかホッとした自分がいる。
(あれ・・・?なんで私、ホッとしてるの?)
「・・・神崎さん、俺と付き合ってもらえないかな?」
「え・・・。」
私・・・?
私なんかと・・・?
「俺じゃ、やっぱり嫌?俺の事嫌い?」
「そ、そんなことない!」
そんな事はないけど・・・。
「やっぱり信じられない・・・?」
そう聞かれると・・・。
彼の事は信じたい・・・。
けど・・・、エリさんの前で見せた冷たい表情はやっぱり気になる・・・。
「・・・どっちが本当の篠原くんなのか・・・わからないの。」
「え・・・?」
彼はなんの話かわからないみたいだ。
「どっちの・・・て?」
無意識のうちに冷たい表情になってた・・・から?
ワザとやってた事ならこんな風に聞き返さなくてもわかるだろうし。
「その・・・エリさんて人と話してる時の篠原くんと・・・
私と話してる時の篠原くん。」
「それは・・・。」
それは・・・?
「どっちだと思う・・・?」
「・・・。」
(わかんないから聞いたのに・・・。)
「どっちも・・・?」
私はそう言って彼の答えを待つ。
多分・・・彼が意識せずにしていたことだとすれば・・・、
どっちも本当の彼・・・と言うことになる。
「・・・正解。」
やっぱり・・・。
「どっちも本当の俺。」
どっちも・・・。
「けど、エリの前での俺は、神崎さんの前には出てこないよ。」
「どうして?」
なぜそう言い切れるの?
「エリの事は好きじゃなかったから。」
私の事を好きだと言ってくれた。
エリさんの事は好きじゃないとハッキリと今、聞いた・・・。
嘘はつかないとも・・・。
信じてもいいのかな・・・?
「信じてもいいんだよね・・・?」
信じたい・・・。
彼を信じたい・・・。
一言でいいから、信じろって言ってくれたら・・・
「篠原くんの事・・・信じたい・・・。」
(お願い・・・、気づいて・・・。)
彼は黙ったまま私を抱き寄せた。
「俺の事、信じろよ・・・。」
少し掠れた声で、そう耳元に囁いてくれた。
待っていたその言葉を彼が言ってくれた瞬間、
私はやっと気がついた・・・。
私も・・・篠原くんの事が好き・・・。
好きだから、あの子に言われた言葉で涙が出たんだ。
好きだから、篠原くんと友達でしかない事が悲しかったんだ。
好きだから、篠原くんにつきあってる子がいない事にホッとしたんだ。
好きだから、この言葉を待ってたんだ・・・。
好きだから・・・。
私は彼の背中にゆっくり手を回した・・・。
言葉のかわりに。
彼はそれに応えるように優しいキスをしてくれた。
言葉のかわりに・・・。
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