言葉のかわりに−第一章・5−

 

 

「いってきまーす。」

唯は玄関先まで見送りにきた母親にむかって手を振りながらドアを開けた。

「あら・・・?」

開けられたドアから見えた人物を見て、唯の母親・真由美が呟いた。

和磨が家の前に立っていたのだ。

「あ、おはようございます。」

和磨はそう言って真由美に軽い会釈をした。

「おはよう。」

真由美は笑顔を和磨に返すと唯に視線を移し、

「唯ちゃん、王子様が迎えにきてくれたわよ。」

と少し悪戯っぽく言った。

「お、お母さん!」

唯は“王子様”という言葉に反応してか少し顔を赤くしている。

(確かに・・・王子様みたいだけど・・・。)

そんな事をおもいながら、「お、おはよう・・・。」とお互いぎこちない挨拶を和磨と交わした。

「えっと・・・篠原和磨です。昨日、俺の不注意で唯さんに怪我させちゃって・・・すいません。」

「あ、いいのいいの。たいした怪我じゃないんだし、それにこの子いつもボーッとしてるから、
 
 こんな怪我しょっちゅうなのよ。」

だから気にしないでね・・・という風に和磨に笑いかけ、真由美は二人を送り出した。

 

唯の家から徒歩1分のところに香奈の家がある。

「いつも香奈と一緒に行ってるの。ちょっと待っててね。」

和磨にそう言うと、香奈の家のインターフォンを押した。

すると、家の中から香奈が足音をドタバタと響かせながら叫んだ。

「ごめーん!唯、先行っててーっ!」

いつもなら待たされてから聞くセリフだった。

今日はすぐにこのセリフが出てきたということは本気で遅刻しそうなのだ。

しかもいつも以上に焦っている様子だ。

「わかったー。」

唯はクスクス笑いながら「先に行こ。」と和磨に言った。

和磨にも香奈の叫び声が聞こえたらしく、笑っている。

唯はその横顔にドキッとしながら再び歩き始める。

(篠原くん、笑った顔意外とかわいいかも・・・。)

学校に近づくにつれ、だんだんと登校する女子生徒の視線を感じてきた。

唯は和磨に気づかれないように小さくため息をついた。

(また、いろいろ聞かれるのかな・・・。)

学校の正門をくぐったところで香奈が追いついた。

「・・・ハァ、ハァ・・・。お、おはよ。」

相変わらず全力疾走してきた様だ。

「おはよ。香奈、今日は一段と寝坊?」

「ハァ、ハァ・・・。う、うん・・・。まぁね。

 ・・・あ、後で話す・・・ハァハァ・・・。」

そんな香奈の様子が可笑しくて唯はまたクスクスと笑った。

 

和磨は唯を教室まで送り、「じゃ、また帰りに。」と言って自分の教室へ向かった。

(え・・・?。また帰りに・・・て?)

唯はポカンと口を開けたまま、和磨の後姿を見送った。

その様子を眺めていたクラスメイトに質問攻めにあったのは言うまでもない。

 

お昼の休憩時間、唯はお弁当を食べながら香奈の寝坊の理由を聞いていた。

「昨日、夜ね拓未くんとメールしてて、なーんか盛り上がっちゃって♪」

「それで、嬉しくてなかなか寝付けなかった・・・とか?」

「あたり♪」

「あははっ。ファンだもんね。」

「ところで唯、いつの間に篠原くんと一緒に登校する約束したの?」

香奈は周りに聞こえないように小声で聞いてきた。

「あー、なんか昨日夜電話かかってきて・・・。」

唯も周りを気にしながら答える。

「へぇー。」

「朝迎えに行くから・・・って。」

「そ、それだけ・・・?」

「う、うん、それだけ・・・。」

「他になにか話さなかったの?」

「うん。」

「まぁ、がんばれ。」

何を?と言わんばかりの顔をしながら唯は小首を傾げて香奈を見た。

 



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