言葉のかわりに−第一章・6−

 

 

彼女の家に着いたのは7時40分。

約束の時間より5分早く着いた。

すると丁度玄関のドアが開き、中から彼女が出てきた。

母親らしき人物に手を振っている。

和磨がその様子を見ていると、彼女の後ろにいた母親と目が合った。

「あら・・・?」

和磨は少し慌てて挨拶をした。

「あ、おはようございます。」

彼女の母親も和磨にやさしく微笑み「おはよう。」と返してくれた。

「唯ちゃん、王子様が迎えにきてくれたわよ。」

そう言って彼女のほうを見る。

「お、お母さん!」

彼女は小さく叫ぶと少し顔が赤くなっている。

「お、おはよう・・・。」と彼女とぎこちない挨拶を交わした後、

和磨は自己紹介と怪我の理由を軽く説明した。

「えっと・・・篠原和磨です。昨日、俺の不注意で唯さんに怪我させちゃって・・・すいません。」

「あ、いいのいいの。たいした怪我じゃないんだし、それにこの子いつもボーッとしてるから、
 
 こんな怪我しょっちゅうなのよ。」

そう言って優しく微笑み「いってらっしゃい。」と送り出してくれた。

(しょっちゅう・・・て。)

和磨はそんなに唯がボーッとしているのかと思い、隣にいる彼女をチラリと横目で見た。

その時、風がふわっと駆け抜け、彼女の長く黒い髪をサラサラと撫でていく。

その横顔があまりにも綺麗で和磨は思わず見入ってしまっていた。

昨日と同じようにシャンプーの香りがした。

「いつも香奈と一緒に行ってるの。ちょっと待っててね。」

そう唯に言われ、自分がボーッとしながら彼女の横顔を見つめていたことに気がついた。

彼女がインターフォンを押すと中から足音を騒々しく響かせながら、

「ごめーん!唯、先行っててーっ!」

香奈のものと思われる叫び声が聞こえてきた。

「わかったー。」

そう言った彼女はいつものことだと言わんばかりにクスクス笑いながら「先に行こ。」と和磨に視線を移した。

和磨も唯と香奈が毎朝こんな感じなのかと想像すると、可笑しくてつい笑ってしまった。

 

学校の正門をくぐったところで、誰かに呼び止められた。

香奈だ。

ずいぶん全力疾走してきのだろう息も絶え絶えに口を開く。

「・・・ハァ、ハァ・・・。お、おはよ。」

「おはよ。香奈、今日は一段と寝坊?」

「ハァ、ハァ・・・。う、うん・・・。まぁね。

 ・・・あ、後で話す・・・ハァハァ・・・。」

香奈の様子が可笑しかったのか彼女はクスクス笑い出す。

和磨はそんな唯の笑顔を見てドキッとした。

元々少し童顔な彼女の顔はもっと幼く見えて、本当に同級生なのかと思うくらいだった。

それがなんだかとても新鮮でかわいかった。

(男子に人気があるのも頷けるよなぁ・・・。)

そんな事を思いつつ、校舎にむかって三人で歩き始めた。

 

和磨が彼女を教室まで送り、自分の教室に入ると拓未が話しかけてきた。

「おまえらいつの間に一緒にくる約束したんだよー?」

「ん、昨日夜。」

「抜け駆けかよー。」

「ちがう!言い忘れたから夜電話したんだ。」

「ふぅ〜ん。」

「なんだよ・・・?」

「んじゃ、俺も明日から一緒に登校していい?」

「いいんじゃね?後で神崎さんに聞いてみろよ。」

「おっし!」

「てか、上木さんも一応いるぞ。」

「一応ってなんだよ?」

「いつも一緒に来てるらしいけど、上木さんの準備が終わってないときは先に行ってるらしい。」

「ほほー。けど俺にとっては好都合。」

「どーゆー意味だ?」

「唯ちゃんと登校できる上に、香奈ちゃんも一緒なんて一度で二度おいしい。」

「そーゆー意味か。」

「ん?他に何が?」

拓未はニッと笑った。

 



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