言葉のかわりに−第一章・8−
週末の土曜日、唯は香奈に連れられ初めてライブハウスという場所にきた。
地下へと向かう狭い階段を降りて分厚く重いドアを開けると、
うるさいくらいのBGMと、煙草の煙や埃っぽい空気が流れ出てきた。
中はすでにファンの子達でいっぱいだった。
ここのライブハウスでは、メインのバンドの前に前座のバンドがいる。
今日のメインバンドはもちろんJuliusだ。
前座のバンドは香奈も知らないバンドだ。
普段はセッティングしてあるテーブルとイスも、Juliusのファンが多いからだろう片付けられている。
唯と香奈は開演ギリギリに来た訳ではないが、すでに前のほうはいっぱいで行けない為、後ろのほうに立った。
「すごい人・・・。」
「Juliusは人気があるから、さすがにファンの数も多いね。」
「もしかして、全員Juliusのファン?」
「うん、多分。前座のバンドのファンもいるだろうけどね。」
「ほぇぇぇ・・・っ。」
和磨達がいかに人気があるか唯は改めて思い知らされた気がした。
香奈からいろいろとJuliusについて教えてもらっているうちに開演時間になり、
前座のバンドがステージに現れ、演奏が始まった。
確かにまったくファンがいないワケではないが、真剣に聞いている人は少なそうだ。
わりと名の知れたライブハウスの為、出演に至るまではオーディションがあるらしく
前座のバンドも下手ではないが、それほど上手いワケでもない。
40分程で演奏は終わり、前座のバンドとJuliusの機材の入れ替えが始まった。
それと同時に最前列では前座のバンドのファンとJuliusのファンの入れ替わりも始まっていた。
「耳、大丈夫?」
香奈はステージ両側に置かれた巨大なメインアンプから流れ出る
ライブハウスならではの爆音に慣れていないであろう唯を気遣って聞いてきた。
「う、うん。」
「唯、こーゆーとこ初めてだから、音の大きさにびっくりしたでしょ?」
「うん。すごい爆音だね。」
「次がJuliusだから耳ならしにはよかったかもね。
いきなり慣れてない耳でJuliusの曲を聴いてもよくわかんなかっただろうし。」
「あははっ。」
香奈のレクチャーによると、Juliusの曲は基本的にオリジナルでほとんど作曲はTakumiで作詞がKazuma。
もちろんそうじゃない曲もあるし、カバーもおりまぜてやるらしい。
Juliusの機材セッティングも終わり、客席の照明も落とされ、唯はドキドキしながらステージを見つめた。
BGMが一際大きくなって消えた瞬間、ドラムのカウントとともにゆっくりとステージを隠していた幕が開き
Juliusの演奏が始まった。
ステージの後ろから当てられている照明のせいで中央に立つKazumaの姿はまだシルエットのままだ。
唯はすでにステージに釘付けとなっていた。
シルエットだけ見ても彼がモデル並みの体型をしていることがわかる。
加えてあの綺麗な顔立ちに長身。
女の子達が放っておく訳がないのも当たり前だ。
やがて、ステージの照明が色鮮やかにJuliusのメンバー全員の姿を映し出す。
Kazumaは前髪を後ろに流している為か、いつもと違う印象を与えていた。
(うぁ・・・篠原くん大人っぽい・・・。)
香奈がすぐに和磨がKazumaだと気がつかなかったのも頷ける。
衣装は黒を基調としたものをメンバー全員が着ていて統一感がある。
メインを務めるだけあって演奏も上手い。
なによりKazumaの歌声は一瞬にして唯をJuliusの世界へ引き込んだ。
(すごい・・・。)
唯はJuliusの音楽を・・・Kazumaの歌声を一音も聴き逃すことのないように聞き入っていた。
1時間弱の演奏はあっという間に終わり、唯はKazumaがステージから去るのを眺めていた。
ふっとKazumaが唯のほうを向き、微かに微笑んだ気がした。
(え・・・、今の・・・私がいた事気づいたのかな?)
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