言葉のかわりに−第一章・9−
ライブのリハーサルが終わり、和磨はふぅっと息を吐きミネラルウォーターで喉を潤していた。
後2時間程で本番が始まる。
(神崎さん、ホントに来てくれるかな・・・?)
そんな事を思っていると、
「和磨、唯ちゃんが来てくれるか心配してんの?」
拓未にあっさりバレてしまった。
「別に・・・。そんなんじゃねぇよ。」
正直思いっきり図星だが、なるべく平静を装って言い放つ。
「ふぅ〜ん。」
拓未はにやにやしている。
「唯ちゃんて誰よ?」
ベースの准が興味深げに聞いてきた。
「もしかして和磨の新しい彼女?」
ドラムの智也も身を乗り出してきた。
「ちがう。」
和磨はぶっきらぼうに答えた。
「けど、気になってんだろ?」
拓未がどうなんだ?と言う風に聞いてきた。
「・・・チケット渡したからには来てくれるか気になるのは当たり前だろ。」
それだけ言って和磨は楽屋を出て行こうと立ち上がった。
「やっぱ気になってんじゃん。」
背中のほうで拓未が言ったのが聞こえたが、これ以上ここにいたらボロが出そうだったので
とりあえず無視をする。
ライブハウスは地下にある為、携帯の電波が届かない。
(もしかしたら来れないって連絡があったかも・・・。)
和磨は不安になって外に出た。
携帯を開き、不在着信やメールが来ていないかチェックする。
不在着信もメールも来ていなかった。
和磨はホッとし、外の風にあたりながら空を見上げた。
本番が始まり、前座の演奏が終わった。
機材の入れ替えをしている時に拓未が和磨に耳打ちをした。
「唯ちゃん、来てるぞ。」
「っ!」
思わず和磨は拓未を見た。
「今ステージの袖から客席見てきた。香奈ちゃんと後ろのほうにいる。」
そう言って拓未はニッと笑い親指を立てている。
和磨は無言で拓未に微かな笑みを返した。
やがて幕が開き、ステージと客席を隔てるものがなくなる時、和磨はKazumaへと変わる。
その瞬間の緊張感は何度経験しても慣れないな・・・とKazumaはいつも感じる。
ステージの照明が色鮮やかになると客席のほうも少しだけ見えた。
拓未が言ったとおり、後ろのほうに唯と香奈がいるのがわかった。
全ての演奏を終え、ステージから去る時にKazumaは唯の方を見た。
自然と微かに笑みが漏れていた。
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