言葉のかわりに−番外編・花火大会3−
「唯ーっ!先、行っててーっ!」
唯がいつものように香奈を迎えに行くと
家の中からドタバタと騒々しい足音と共に
お決まりの台詞が聞こえてきた。
香奈は夏休みでたった一回しかない登校日でも相変わらずこれだ。
「わかったー。」
唯はそう言って返事をすると遅刻しない程度にゆっくり歩き出した。
正門の近くまで来たところでやっと香奈が唯に追いついた。
「・・・ハア、ハア・・・お、おは、よ・・・。」
「あはは、おはよう。」
唯は香奈の背中を摩りながら、
「大丈夫?」と言ってクスクス笑った。
香奈の呼吸が落ち着いたところで、
二人は学校に向かって歩き出した。
和磨達の教室の前を通ると、
ライブの直後かと思うほどの人だかりができていた。
その様子を見ながら唯が呟く。
「うぁ、すご・・・っ。」
「夏休みで会えないから、みんな来てるみたいね。」
女の子達に囲まれている和磨と拓未を見て香奈は苦笑した。
「なるほど・・・。」
(はぁ・・・、あれじゃ近づけないな・・・。)
唯は小さくため息をついた。
そんな唯をちらりと横目で見つつ、
「唯、最近会ってないんでしょ?」
と、香奈が言った。
「え?う、うん・・・。」
「ちゃんとメールとか電話してる?」
「・・・う、ん。」
唯は俯きながら返事をした。
してないな・・・。
香奈はおおよその事情を拓未から聞いていた。
和磨と唯の予定がすれ違いばかりで会えない事を。
それに、和磨の様子も。
唯の性格からして、寝る前に和磨からの着信やメールがあった事に
気づいても、掛けなおすことはしないだろう。
和磨も寝てしまっているかもしれない・・・。
そういう事を気にするから。
やっと登校日に学校で会える・・・と思ったら、
すでに人だかり。
唯は近づくことすらできないでいた・・・。
登校日といっても授業がある訳でもなく、
午前中に長いHRがある程度だ。
HRが終わり、唯と香奈は和磨達の教室の前に来た。
ちょうど和磨達もHRが終わったようだ。
中を覗くと拓未と、その後ろで机に顔を伏せている和磨が見えた。
唯と香奈は中に入り、和磨と拓未に近づいた。
拓未は二人に気づき、「よぅっ!」と言って笑みを浮かべた。
和磨は・・・どうやら寝ているようだ。
唯は初めて見る和磨の寝顔にドキっとした。
(きれいな寝顔・・・。)
静かに寝息をたてて、気持ちよさそうに寝ている。
唯がじっと和磨の寝顔に見入っていると、
「おい、和磨。唯ちゃん来てるぞ。」
と言って拓未が起こそうとしていた。
「あ、いいよ。望月くん。」
「なんで?」
「だって、よく寝てるみたいだし・・・。」
「でも、唯。ここ最近、篠原くんと話してないんでしょ?」
「あ、でも、話せなくても会えたし・・・。」
「これはちゃんと会えたと言えるの?」
香奈の鋭い突っ込みに少したじろぎながら、
「起こしてもらっても私、この後レッスンあるから
あんまり時間ないし・・・。」
そう言って唯は和磨を起こさないように言った。
(少しだけでも話したかったけど、気持ちよさそうに寝てるし・・・。)
「それじゃ、私帰るね。篠原くんによろしく!」
結局、唯はそれだけ言うと、とっとと一人で帰ってしまった。
その直後、女の子達が教室に入ってきて和磨が起こされたのは知るはずもない・・・。
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