言葉のかわりに−番外編・花火大会4−

 

 

夏休みに入ってからと言うものの、和磨は結局、

唯とは一度も会えず、ろくに電話もメールもできないでいた。

だけど明日は夏休みに一度だけある登校日。

明日、学校に行けば唯に会える・・・。

和磨はそう確信していた。

 

朝、いつもより早く家を出た。

学校に着くのもいつもより早かった。

和磨は自分の教室に向かい、それから唯の教室に向かうつもりだった。

・・・しかし、和磨の教室ではすでに女の子達が待ち構えていた。

(げ・・・っ!)

そう思った時には遅かった・・・。

女の子達に囲まれ、唯の教室に向かうどころではなくなってしまったのだ。

 

やがてHRが始まり、担任からいろいろと何やら話が始まった。

昨夜曲作りの為、徹夜したおかげで一睡もしていない和磨にとって

担任の話は子守唄のように聞こえてくる。

睡魔に襲われ、和磨はそのまま机に顔を伏せて眠ってしまった。

 

一体、どれくらい寝ていたのか・・・?

「・・・るね。篠原くんによろしく!」

(唯の声・・・?)

目が覚めかけて、まだ朦朧とする中、唯の声が聞こえた気がした。

その直後、周りが騒がしくなって目を開けた時には、再び女の子達に囲まれていた。

(唯・・・?)

(唯、どこだ・・・?)

周りを見渡しても唯の姿はどこにもない。

(あれ・・・?・・・夢?)

 

それからしばらくして、女の子達から解放された後、和磨と拓未、香奈の三人で

いつものファーストフードに入った。

そういえば、唯がいない・・・。

香奈はいるのに。

(唯はどうしたんだろう?)

「唯は?」

「レッスンがあるからって帰ったよ。」

「・・・そっか。」

やっぱりあれは夢だったのか・・・。

そう思っていると、拓未が呆れたように口を開いた。

「つーか、おまえが寝てる間に唯ちゃん来てたんだぞ。」

「え・・・っ?」

(なんだって?)

「なんで起こしてくれなかったんだよ!」

「唯ちゃんが起こすなって言ったんだよ。」

「・・・。」

ヘタこいた・・・。

あそこで寝てなければ・・・。

サイアクダ・・・。

和磨は大きくため息をついた。

その様子を見ていた香奈が徐に口を開いた。

「まったくあんた達二人とも、ため息しかつかないわね〜っ。」

「?」

“あんた達”・・・て?

「唯も朝からため息ついてたし。」

「へ?なんで?」

和磨は訳がわからない・・・と言った感じで香奈に聞き返した。

「なんでって・・・。そりゃ、篠原くんとまともに会うどころか

 話もできないからに決まってるでしょ。」

「・・・!」

(え・・・?)

驚いた和磨を見て「唯が平気でいられるとでも思った?」と香奈が言った。

「・・・。」

(唯も・・・、唯も俺と会えなくて辛いと感じてるって事か?)

「唯は私にもなんにも言わないけど、

 篠原くんと話せなくて寂しいって顔してたよ?」

「・・・そうなの、か?」

「うん。長年の付き合いだから、それくらいすぐわかるわよ。」

「・・・。」

「会えないのは仕方ない事だとわかってるから、篠原くんの前では

 心配かけたくなくて平気なフリしてるんだと思うよ?」

「・・・。」

(俺には平気な顔に見えたけど、本当はちがうってことか?)

(顔に出さないようにしてたのか?)

「唯ってさ、携帯に出ること少ないでしょ?」

「・・・うん。」

そう・・・そーなんだよ・・・。

「あれさ、地下室でピアノ弾いてるからだよ。」

「は?」

「唯ね、家にいる時は携帯を自分の部屋に置きっぱなしにしてて、

 地下の部屋でピアノ弾いてることが多いから。」

「地下室・・・?」

「うん。唯の部屋にもピアノはあるんだけど、地下室にグランドピアノがあって

 防音もバッチリしてあるから、だいたいそこで弾いてるみたい。」

「そーなんだ・・・。」

俺はなんだか少しホッとした。

別にワザと出ない訳じゃなかったことに・・・。

・・・てゆーか、地下室って。

「メールしても寝る前に返ってきたりしない?」

「う、うん。」

「どうやら寝る前、携帯の目覚ましをセットする時に

 着信とかメールに気づくみたいよ。」

「・・・え。」

そーなのか?

「だから、メールはとりあえず返すみたいだけど、

 電話は相手も寝てるかもしれないと思って掛けなおさないみたい。」

そうか・・・。

そーゆーコトか・・・。

言われてみれば確かにそうだ。

唯の性格からして大いに有り得る。

そんな事気にしなくていいのに・・・。

「けど、最近はまだマシになった方よ?」

「・・・と、いうと?」

「篠原くんと出会う少し前までは、ずっとマナーモードにしてて、

 家に帰ってからもカバンから携帯を出すこともしてなかったし。」

(・・・え?)

「マジ?」

(・・・嘘だろ?)

「マジ、マジ、大マジ。」

香奈は笑いながらそう言うと話を続けた。

「んで、そんなんだから電話してもメールしても一向に返ってこないし。」

「うんうん。」

「で、仕方がないから私が“家に帰ったらまず携帯をカバンから出して

 マナーモードを解除しなさい命令”をしたの。」

「はぁ・・・。」

(そんなにひどい状態だったのか・・・。)

「それでも、今まで使ってた目覚まし時計が壊れるまでは、

 寝る前に携帯を見る事もなかったのよ。」

「・・・。」

俺はもう呆れて声もでなかった。

拓未も唖然としている。

「最近はその目覚まし時計が壊れてくれたおかげで、

 寝る前に携帯で目覚ましをセットする時に見る機会ができた・・・てワケ。」

「有り得ん・・・。」

「それが唯には有り得るのよ。」

香奈がボソッと言った。

「・・・。」

(そう・・・かも、な。)

妙に納得してしまう自分がいる。

「まぁ、もともと携帯自体も無理矢理持たされたし。」

「「えっ!?」」

俺と拓未は同時に声を発して驚いた。

(無理矢理・・・?)

「高校に入る時にね、唯の両親が入学祝いを兼ねて持たそうとしたんだけど、

 唯、携帯なんかいらないって言ったのよ。」

「「・・・。」」

俺と拓未はもう言葉も出ない。

(普通、逆だろ・・・。)

「けど、レッスンで帰りが遅くなることも多くなってきた頃だったし、

 持ってて損はないからって家族で説得・・・で、しぶしぶ持ったって感じ。」

「だから、携帯も放置してたのか・・・。」

「そそ。」

「謎、解明・・・。」

俺は唯と連絡が思うように取れない謎が解けて

なんだか力が抜けた・・・。

 



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