言葉のかわりに−番外編・花火大会8−
今夜、本当は唯と花火大会へ行くはずだった。
しかし、唯の方にレッスンが入ったため、俺もバイトを入れた。
店長は約束通り、この日の俺の時給を100円UPにしてくれた。
そのかわり今日はちょっと長めのバイトで夜10時までだ。
それはいい。
それはいいんだが・・・
なぜ、目の前にこいつらがいる?
「和磨、おまえ今日10時までだろ?」
「あと少しじゃん!一緒にお茶して帰ろ?」
拓未と香奈がニコニコしながら目の前に立っていた。
「つーか、おまえら当て付けか!」
人が花火大会を諦めてバイトに入ってるって言うのに、
あてつけがましく、花火大会の帰りになんか来やがって!
「まぁそう怒るな。」
拓未がニヤニヤしながら言う。
「別に当て付けなんかじゃないのにぃー。」
香奈はそう言いつつ、しっかりと拓未と腕を組んでいる。
まったく鬱陶しい・・・。
10時になり、俺はバイトが終わって自転車を押しながら
拓未と香奈と一緒に歩いていた。
「唯、もうレッスン終わったかな?電話してみようか。」
香奈が携帯を取り出す。
「さすがに終わってるだろー?」
そう言いながら拓未は花火大会の会場でもらったらしき団扇でパタパタ扇ぐ。
「あれ・・・?まだマナーモードだ・・・。」
香奈が怪訝な顔をした。
「マナーモードってことは、まだレッスン中!?」
「うーん・・・そうみたい。」
(こんな時間まで・・・?)
「レッスン終わったばっかりなら、唯がその辺から出てくるかも。」
そう言って目の前の脇道を指した。
「唯ちゃんの通ってる教室ってこの近くなんだ?」
「うん、そこ曲がってちょっと行ったとこ。」
「ふーん。」
(へぇー。)
すると、その脇道から自転車に乗った女の子が出てきた。
あまり街灯で照らされていない為、顔が見えない。
「あっ!」
香奈が思わず声をあげる。
(ん?知り合いか?)
「唯っ!!」
香奈が手を振りながら叫んだ。
(なにっ!?)
俺は自転車に乗った女の子に視線を向けた。
女の子もちょうど振り向いて俺達に気づいたみたいだった。
「あ・・・。」
・・・唯だ。
俺は近づいてくる唯が幻じゃないかと思ったくらい信じられなかった。
唯は驚いた顔をして俺達の目の前に来た。
「どーしたの?みんなこんなとこで・・・。」
「私と拓未は花火大会の帰り。」
そう言って香奈は拓未の持っていた団扇をパタパタ扇いで見せた。
目の前に唯がいる。
思わず笑みがこぼれる。
「俺はバイトの帰り。」
「バイト?」
「うん、店長に拉致られた。」
「へ?なにそれ・・・?」
そう言って唯はクスクス笑い始めた。
久しぶりに見る唯の笑顔。
(やっぱ、かわいいな。)
それから拓未と香奈は、俺達に気を使ってくれたのか、
さっさと二人で帰っていった。
俺と唯はお互い自転車なのに、降りたまま歩いている。
「今日は自転車なんだ?」
「うん、いつも自転車なんだけど、この前はお母さんが私の自転車乗って
どっかに行っちゃってて歩きだったの。」
「あはは、そっか。」
「でも、まさか今日会えるとは思わなかったー。」
唯は嬉しそうに笑みをこぼした。
「うん、俺も。」
(唯も俺に会いたかったのかな・・・?)
「ずっと会いたかった・・・。」
呟くようにそう言った俺に唯は柔らかい笑みで見つめ返してきた。
「うん・・・私も・・・。」
すごく小さな声だったけど、確かに聞こえた。
唯も俺に会いたかったんだと思うと嬉しかった。
時間が遅いこともあって、結局どこにも寄らずに他愛もない話をしながら
そのまま唯の家まで歩いた。
「それじゃ、またね。」
そう言って唯が微笑む。
「うん、また。」
俺も唯に笑みを返した。
唯は俺が早く家の中へ入れと言うのも聞かず、
俺の姿が見えなくなるまで見送ってくれた。
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