言葉のかわりに−番外編・花火大会9−
花火大会当日。
この一週間、俺はヒヤヒヤしながら過ごした。
いつ、唯からレッスンが入ったと言われるか・・・。
そればかりが気になっていた。
唯との待ち合わせ場所に少し早く着いた俺は、
唯が本当に来てくれるか不安だった。
(ドタキャンの電話が入ったりして・・・。)
俺は携帯を開いて、唯からの着信とメールがないかを確認していると、
視線の先に浴衣の裾と下駄を履いた女の子の足元が映った。
俺は顔をあげ、目の前に立っている女の子に視線を移した。
「・・・っ!」
白地に紺色がかった青い花柄の浴衣に、黄色い帯。
髪はアップにして、浴衣とお揃いの花をつけている。
俺は目の前に立っているのが一瞬誰だかわからなかった。
(唯・・・?)
少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて、俺を見上げている顔は確かに唯だ。
言葉を失って、黙ったままの俺に「へ、変かな・・・?」と言って唯は少し俯いた。
変・・・と、いうより・・・かわいすぎるっ!
俺は今すぐ抱きしめたい衝動に駆られながらも、なんとか抑えつつ、
「全然変じゃないよ。むしろ・・・かわいい。」
と、素直に感想を言った。
すると唯はさらに顔を赤く染めて、俺を見上げた。
その仕草がまたかわいくてたまらない。
「行こうか。」
「う、うん・・・。」
そう言って、二人で会場に向かって歩き出す。
いつまでも、見つめあっている訳にもいかない。
花火大会に行かないと。
見つめあうのは、後でもできるし・・・。
俺はそっと唯の手を取り、繋いだ。
横目でチラっと唯を見ると、少し恥ずかしそうにしていた。
(あー、もう一々かわいいな、ちくしょー。)
俺達は拓未に教えてもらった会場から少し外れた高台の公園に行った。
出来たばかりの公園らしく、あまり知られていない穴場なのか、
もう少しで花火大会の開始時刻だというのに周りにいる人の数は少ない。
(アイツよくこういうとこ見つけてくるな・・・。)
拓未は俺と違ってデートのリサーチとかもマメだ。
女の扱いも上手い。
女好きだからか・・・?
俺を“恋愛初心者”呼ばわりするのも納得できる・・・かもしれない。
「今日は天気が良くてよかったー。」
唯が空を見上げながら口を開いた。
「あぁ、そうだな。」
俺も同じ様に空を見上げた。
暗くなりかけた空には有明月と星が瞬きはじめている。
「うぁ・・・きれい・・・。」
「うん・・・。」
同じ空を見て、同じ様にきれいだと感じる・・・。
なんかいいな・・・こういうの。
それからしばらくして花火大会が始まった。
花火を打ち上げる大きな音がした次の瞬間、
夜空に大輪の花が咲く。
「うわぁっ!すごい、すごい!」
次々とあがる花火を見て、唯は少し興奮気味だ。
俺はそんな唯が少し子供みたいに見えて思わず笑ってしまった。
「?」
俺がどうして笑っているのか不思議そうな顔で唯が俺の顔を見る。
そんな唯がとても可愛くて俺は唯の肩を抱き寄せた。
「し、篠原くん・・・?」
少し慌てて、唯は恥ずかしそうに頬を赤くして俯いた。
「・・・唯。」
俺が名前を呼ぶと唯はまだ少し赤い顔で見つめ返してきた。
そのまま抱きしめて耳元に囁く。
「・・・そろそろ・・・名前で呼んで?」
唯は少し驚いた後、戸惑いながら小さくコクッと頷いた。
「唯・・・。」
もう一度、耳元で名前を呼ぶと俺の胸のあたりに触れていた
唯の手に少し力が入ったのがわかった。
緊張・・・してるのかな?
そういえば、俺も初めて“唯”って呼んだ時は緊張したな。
そんな事を思い出していると、唯がゆっくりと口を開いた。
「・・・か、・・・か、」
か・・・?
「・・・か、ず・・・君。」
かず君?
へ・・・?
俺はてっきり“和磨”と呼び捨てにしてくれるもんだと思っていた。
ちょっと拍子抜けした俺を見て「だ、駄目・・・?」
と、唯が不安そうな顔をする。
今まで付き合ってきた女は、みんな“彼女”になった途端、
“和磨”と呼び捨てにしていた。
Juliusのファンの子はみんな“Kazumaくん”だ。
いきなり呼び捨てにできないと思った唯なりの呼び方なんだろう。
(唯らしいな・・・。)
かず君か・・・、悪くない。
俺は微かに笑みを返し、そのまま唯の唇にそっとキスを落とした。
もう一度抱きしめて「いいよ、それで。てゆーか、その呼び方がいいかも。」
そう言うと、唯は「・・・うん。」と言って微笑んだ。
それから、俺はずっと唯の肩を抱いたまま花火を見た。
よかった・・・拓未達がいなくて。
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