言葉のかわりに−番外編・バレンタインデー 1−

 

 

―――バンタイン・デー。

今日は一年で女の子が一番ドキドキする日。

 

男子の方もある意味ドキドキするのか、

唯のクラスの中も浮ついていた。

朝来たら下駄箱にチョコがあったとか、

机の中にあったとか、昇降口で待ち伏せされてたとか・・・

いろいろ話をしている。

(かず君は、全部有り得そうね・・・。)

現に今朝も和磨の教室を覗いてみると、

いつも以上に女の子に囲まれていた。

あの様子だときっと下駄箱にも有ったり、

机にも有ったり、昇降口でも渡されたりしててもおかしくない。

昼休憩もきっと囲まれるだろう。

放課後だって囲まれたり、帰る時も待ち伏せされるだろう。

(今日は一緒に帰れないかもな・・・。)

唯はため息をついた。

 

 

昼休憩、唯は和磨の教室をちらりと覗いてみた。

案の定、女子生徒達に囲まれている。

(うー・・・やっぱり近づけないよ・・・。)

唯は仕方なく、すごすごと自分の教室に戻っていった。

 

 

放課後も唯は和磨の教室に行ってみたが、

やはりたくさんの女子生徒達に囲まれている。

きっとしばらく解放されないだろう・・・。

そう思った唯は、一人で帰りながら和磨にメールを送った。

 

−−−

先に帰るね。

−−−

 

(後でかず君の家に届けに行こうかな。)

別に朝早く来て下駄箱に入れておくなり、

机に入れておいてもよかったのだが、

どうしても直接渡したかった。

かと言って、明日渡すのでは意味がない・・・。

 

唯はトボトボと歩きながら、一人であの展望台へ行った。

今日はなんだか真っ直ぐ帰る気になれない。

それに今なら夕焼けが見られそうだ。

ベンチに座り、隣に和磨がいない事を実感して気がついた。

(そういえば、ここ・・・一人で来たことなかったな・・・。)

 

 

今日の夕焼けは一段と綺麗だ。

なんでなんだろう・・・?

なんでこんな時に一人なんだろう。

こんな綺麗な夕焼けは滅多に見られない。

それなのに、隣には和磨がいない。

(かず君、まだ女の子達と一緒なんだろうな・・・。)

唯は空を見上げながら、大きなため息をついた。

(一緒に見たかったな・・・。)

そう思っていると、視界の先にある夕焼け空を誰かの顔で塞がれた。

唯は突然の事でびっくりして一瞬誰なのかわからなかった。

 

「唯、発見。」

和磨が後ろに立って上から唯の顔を覗き込んでいた。

 

「か、かず君っ!?」

驚いたあまり唯は後ろに倒れそうになった。

 

「おっと。」

慌てて和磨が抱きとめる。

 

「あ、ありがと・・・。てか、なんでいるの?」

唯は和磨が目の前にいる事が信じられなかった。

てっきりまだ女の子達と一緒だと思っていたからだ。

 

「先に帰るってメールが入ってたから、急いで追いかけたんだけど

 この時間なら夕焼けが見られそうだから、

 もしかしてここに来てるかと思って。」

そう言いながら和磨は唯の隣に腰掛けた。

 

「え・・・じゃなくて、ファンの子は?」

唯は和磨がここにいる事も不思議だったが、なにより

ファンの子達をどうしたのかが気になった。

 

「もうみんな帰ったよ。」

和磨は心配するなという風に唯の頭をポンポンと軽く撫でた。

 

「今日は一段と綺麗な夕陽だな・・・。」

和磨は唯の頭を自分の肩に凭れかけさせた。

 

「・・・うん。」

 

 

しばらく夕焼けを一緒に見た後、

「よかった・・・、かず君と一緒に見れて。」

唯が徐に口を開いた。

「ん?」

和磨が唯の顔を覗き込む。

 

「すっごく綺麗な夕焼けだったから、ホントはかず君と一緒に

 見たいなって思ってたの。」

そう言って唯は和磨に微笑んだ。

 

「そっか。」

和磨も唯に優しく笑みを返した。

 

「あ、そだ!」

「・・・?」

「かず君、これ。」

唯はずっと渡したかったものを和磨に渡した。

 

「これって・・・。」

 



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