言葉のかわりに−番外編・ホワイトデー 2−

 

 

「あら、篠原くん、いらっしゃい。」

唯の母・真由美がにっこり笑って和磨を家の中へと入れてくれた。

 

「あの・・・唯さんの具合は?」

 

「さっきまで熱があったんだけど、今下がってるから大丈夫よ。」

そう言って真由美は二階にある唯の部屋に案内してくれた。

 

コンコンッ。

 

「唯ちゃん、篠原くんが来てくれたわよー。」

真由美はノックをして中で寝ているであろう唯に声をかけた。

 

「えっ!?か、かず君・・・!?」

すると中から唯の驚いた声がした。

 

真由美がドアを開け、「コーヒーいれてくるわね。」と言い、

一階へと降りていった。

 

和磨はおずおずと唯の部屋に入った。

もちろん、ここに入るのは初めてだ。

唯の部屋はピアノがあるからか、12畳くらいの広めの洋室で

全体は淡いブルーで統一されていた。

ピンクの部屋を想像していた和磨の予想は見事にはずれた。

ピアノとドレッサー、ベッド、クローゼット、テレビ、コンポ、DVD、

机とテーブル、ノートパソコン、本棚には大量の楽譜と音楽に関する本。

後は、いくつかの写真立てとぬいぐるみがあった。

やっぱり女の子の部屋だ。

 

「大丈夫か?」

和磨はベッドにいる唯に近づき、心配そうに声をかけた。

 

「うん。」

返事を返した唯は鼻声だった。

熱がさがって少し動けるようになったからか、

唯はパジャマの上に軽くカーディガンを羽織って

本を読んでいたようだ。

和磨はベッドの横に膝をついて、

「寝てなくて平気なのか?」

と唯が羽織っているカーディガンをかけなおした。

 

(こんな時に不謹慎だけど、パジャマ姿の唯もかわいいな。)

 

和磨がそんな事を思っていると、

真由美が和磨にコーヒーと唯にはちみつレモンを淹れてきてくれた。

唯のマグカップはもちろん、あのグラスマグだ。

和磨はやっぱりディズニーパスポートじゃなくて

よかったかも・・・と思った。

 

「わざわざ来てくれるなんて思わなかった。」

唯は嬉しそうに頬を赤くした。

 

「当たり前だろ?彼女が風邪ひいてんのに・・・。」

そう言って和磨は唯のおでこに手をあてた。

 

「ん・・・、熱はないみたいだな。」

さっき真由美から熱は下がったと聞いてはいたが、

やはり心配だった。

 

「俺に風邪をうつしちゃいけないと思って避けてた?」

和磨は唯の顔を覗き込んだ。

 

「だって、明後日Juliusのライブだし・・・。」

唯はそう言いながら俯いた。

 

「俺はそんなに柔じゃねぇよ。」

和磨は唯に優しく微笑んでみせた。

 

「う、うん・・・。」

唯は俯いたまま返事をした。

 

「けど、ありがとな。気ぃ使ってくれて。」

和磨は唯の頭をクシャッと撫でた。

 

「あ、そうだ・・・これ。」

和磨は唯に小さな紙袋を渡した。

 

「?」

唯は、不思議そうな顔をしながら紙袋を受け取った。

 

「今日、何の日か忘れた?」

和磨はクエスチョンマークを頭の上に浮かべている唯に

苦笑しながら言った。

 

「今日?・・・あっ!」

唯はようやく思い出したようだった。

 

「ホワイト・デー。」

和磨はにっこり笑った。

紙袋の中身は、クッキーとリボンのかかった小箱、

後は風邪をひいた唯の為に急遽買ったのど飴だった。

 

「さすがにクッキーは手作りじゃないけどな。」

 

「かず君の手作りクッキーなんて想像できないよー。」

唯はくすくすと笑った。

そして中に入っている小箱を手に取った。

 

「これ、開けてみてもいい?」

「あぁ。」

唯はリボンを解き、小箱を開けた。

中には、花をモチーフにしたシルバーの指輪が入っていた。

小さな花の部分にはジルコニアがあしらわれている。

 

「かず君・・・これ・・・。」

唯は思わぬ物が入っていたのか言葉を失っている。

和磨は指輪を手に取り、唯の薬指にそっとはめた。

 

「え・・・、ぴったり・・・。」

唯は指輪のサイズがぴったりだったことに驚いている。

 

「な、なんで・・・?」

キョトンとしている唯の顔が可笑しくて和磨は思わず笑った。

 

「内緒。」

和磨は悪戯っぽく笑いながらそっぽを向いた。

実は先々週、和磨の部屋に唯が来た時、寝ている隙に

糸を薬指に巻き、測っておいたのだ。

これも拓未から教わった方法なのは言うまでもないが・・・。

 

「かず君・・・ありがと。」

唯は嬉しさの余り、目に涙を浮かべている。

和磨は、そっと唯を抱き寄せて

「今日はバレンタインに告白してくれたお返しの日。」

そう言って、唯にキスをした。

 

「かず君、風邪うつっちゃうよ・・・。」

唯はすぐに和磨から離れようとした。

けれど、風邪で弱っている唯の力はとても弱く、

しかも和磨の腕が唯の肩をしっかりと抱いていた為、

離れられなかった。

 

「唯の風邪なら喜んで全部貰うよ。」

和磨はそう言うと、もう一度唯の唇にキスを落とした。

 



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